問いを立てることでテクストをジブンごとにするワークショップ、ジンブンアトラスの実践例を紹介します。

第七回は2023年5月27日に駒場博物館で実践したジンブンアトラスの様子を写真付きでお伝えします。今回は駒場博物館で開催された特別展「『近代ロンドンの繁栄と混沌』:東京大学経済学図書館蔵:ウィリアムホガース版画(大河内コレクション)のすべて」のイベントとして、「東京大学駒場博物館・目黒区教育委員会連携講座:ワークショップ「ウィリアム・ホガースの版画を使って人文学研究の発想や手法を体験する」」を開催しました。今回のジンブンアトラスではどのようなテクストを用いてどのような気付きがあったのでしょうか。

概要

  • 日時:2023年5月27日(土)14:00~16:00
  • 場所:駒場博物館展示室
  • 参加人数:約30名
  • 内容概要:ジンブンアトラスを用いた人文学研究の発想や手法の体験

採用テクスト

今回は特別展のイベントとしての開催のため、全てウィリアム・ホガースの版画をテクストとして利用しました。

①《一日のうちの四つの時》(連作)[1738年]

季節や年齢など時間進行をテーマにした連作は西洋絵画の伝統の一つである。ホガースの連作は朝、昼、夕、夜という四つの時を季節も違えながら、異なる人物像とロンドン風景によって描き分けている。物語は連続していないが、夕方まで中心人物が同じ方向に歩いていることで時間の継続が示唆されている。フランスのニコラ・ランクレによる同名の連作(1739-41年)が貴族生活を描いたのに対し、ホガースはスウィフトやジョン・ゲイの文学作品に範を取り、ロンドンの中流階級や民衆をユーモラスに表象している。

②〈ビール街〉と〈ジン横丁〉二幅対[1751年]

▲この対照的な二つの作品は一対で鑑賞されるべきものとして制作された。〈ビール街〉では街は活気にあふれ、居酒屋では大ジョッキでビール(エール)を飲んでいる職人たちが快活に雑談をしている。それとは対照的に、〈ジン横丁〉ではジンの過飲によって身を持ち崩して貧困に喘ぐ貧民たちが描かれている。前者では活気、繁栄、豊穣、性愛がテーマとして画面全体に広がっているが、後者では堕落、困窮、飢餓、死が全体を支配している。

②《来襲》二幅対(1756年)

▲七年戦争が1756年に勃発すると、フランスは即座にル・アーヴルとブレストに軍隊を集結させ、英仏海峡を渡る構えを見せた。イギリス国内ではフランス軍来襲に不安が広がった。フランス嫌いのホガースは、痩せこけて弱々しいフランス軍と訓練を重ね意気揚々としているイギリス軍とを対照化することで、悲観論を払拭しようと試みている。20世紀前半にイギリスの諷刺画を編纂したM・ドロシー・ジョージは、フランス軍来襲に悲観的な絵が多数を占める同時代において異色の諷刺画であると指摘する。