このインタビューは全3回シリーズ
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ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第五十四回となる今回のインタビューでは、日本に在住するインドネシア人労働者の移動経験とコミュニティ形成を研究テーマに、一橋大学大学院社会学研究科で博士課程に在籍する研究者であり、技能実習・特定技能制度下で暮らすインドネシア人への情報支援・権利啓発活動にも取り組む、ワオデ ハニファー イスティコマー (Waode Hanifah Istiqomah)さんにお話を伺います。

インフラの冷たさの中に「ルーマ(家)」を作る――研究と支援の往還

——その壁を、どう乗り越えているのでしょうか。

特効薬はありませんが、まずは自分が何者で、なぜこの研究をしているのかを、飾らず誠実に明かすことから始めています。研究者という立場を隠さず、かつ、一人の同胞として教えを請う謙虚な姿勢を忘れないこと。

そうやって試行錯誤しながら、少しずつ心の距離を測っています。時には同胞だからこそ「書けない」こと、つまり彼らのプライバシーや尊厳をどう守るかという問題にも直面しますが、それも含めて、当事者同士の複雑な関係性の中からしか生まれない、調査を積み上げていくしかないと考えています。

——そうやって誠実に関係を築き、ようやくすくい上げた彼らの「成功」や「喜び」の語りでさえ、扱い方を一歩間違えると、意図しない方向に利用されてしまう危うさがありますね。

まさに、そこが研究者としての大きな懸念点なんです。せっかく個人の語りを丁寧にすくい上げたとしても、今度はその「語られ方」そのものに、構造的な問題が立ちはだかります。

例えば、政府が「帰国者がこれほど成功しているから、この制度は素晴らしい」という特定のナラティブを、制度の正当化のために利用することがあります。しかし、実際には、インドネシア政府による帰国後の支援はゼロに近いといえます。彼らの成功は、国の制度というよりは、本人の並外れた努力の結果である場合が少なくありません。

私は、こうした個人の成功が構造の不備を覆い隠すための「盾」に使われることには反対です。構造の欠陥は、個人の物語によって免罪されてはならない。だからこそ、仕組みを冷静に批判する視点と、個人の生き様を丸ごと肯定する視点、その両方を行き来しなければいけないと思います。

——ワオデさんの論文には「インフラストラクチャー」という言葉が頻繁に登場します。一方で、ご自身の活動の根底には「ルーマ(家)」という意識がある。この対極にある二つの概念を、どう繋げようとしているのでしょうか。

インフラには、移民のネットワーク、国による規制や仲介業者または交通手段など多数の側面が含まれ、各側面が相互に作用し合いながら、移住現象を促進させ、一方では行き先や移住できる期間、就労できる職種を限定する仕組みのことです。現代の労働移動は、まさに巨大なインフラの上に成り立っています。そこでは「人間」はしばしば記号化され、最適化の対象となります。

対して「ルーマ」は、人間が人間として尊重され、安らぎ、再び立ち上がるための場所です。私の野望は、冷たいインフラの中に、少しでも多くの「ルーマ」のような温かな空間を、そして仕組みを作ることです。