ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。
第六十一回となる今回のインタビューでは、「人は何を語り、何を語らないのか」という視点から、実在の人物をめぐる語りやジブリ作品の物語構造を研究する、小柳花音さんにお話を伺います。
「異人」で読むジブリ3作品
——大学以降では、ジブリ作品が対象になるわけですね。具体的にはどの作品を取り上げたのでしょうか?
『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』の3作品です。
——この3作品をピックアップした背景は何だったんですか?
日本が舞台になっている、あるいは、明確に日本が舞台だと言える作品である、というのが一つ。あとは、「神」が登場する、ということで選びました。厳密に作中で「神」としてキャラクターが認識されている描写がなくても、「神的な存在」、例えば精霊のような存在が物語の中心的な位置に据えられているもの、という基準です。
——そこから、どうやって構造を見つけていくんでしょうか。
私は「異人」という概念を用いました。
——「異人」、聞きなれない方も多いかもしれません。どのように分析したのか、詳しく聞かせてください。
この研究は、「主人公のキャラクター」と「神のキャラクター」の関係性を分析していく内容になっています。
1988年に公開された『となりのトトロ』は、サツキが主人公でトトロという神的存在と関係を築いていきます。もっと具体的に言えば、神的存在であるトトロがサツキを助けてくれる、というお話になっている。
『もののけ姫』は『トトロ』の約10年後に公開されました。このお話では、アシタカとシシ神の関係は、シシ神がアシタカを助け、アシタカは撃たれてしまったシシ神の首を返す、けれども最後にはシシ神は消えてしまう、という流れになっています。主人公と神とが、必ずしも一方的でなく、対等な関係性を築いているといえます。
これが2001年公開の『千と千尋の神隠し』になると、今度は千尋の側が、ハクという神の存在に対して、最終的に本当の名前を思い出させてあげています。ハクが本来の姿を取り戻すために、千尋による救済がある、つまり、関係性が「最初は神が上だったところから、逆転していく」という構造になっているんですね。
それから、この3作品の主人公は、全員、自分が元いた生活圏から離れて、別の生活圏へ移動しています。
——あ、本当だ。サツキも千尋も「引っ越し」の場面が印象的ですし、アシタカも元いた村を追われた身でした。
この「別のところに移っていく」というのも異人の特徴です。もっと言えば、異人は「共同体の成員から、自分たちとは違うと認識される存在」なんですよね。ですから、サツキ・アシタカ・千尋という主人公たちが異人として、どのように共同体から離れることになり、どのように別の共同体に参入し組み込まれていくのかを分析する、という内容です。
——なるほど。神の登場をキーとしつつ、「異人」の主人公と、神のような何かが、どういう関わりを結んでいるのか——もう一歩引いて構造化すると、そんなふうに言える、と。やはり、「一歩引いてそう言える」というところに、小柳さんは面白さを覚えるんですね。
はい。「違う話なのに同じ構造がある」ということだけでなく、同じ構造を持っているからこそ差異が際立つというところにも、関心があるんだと思いますね。
——最後に、博士課程の話を伺おうと思うのですが、初めから博士課程に進むとは思っていらっしゃらなかったとか。どういった経緯で研究者の道が開けていったのでしょうか。
修士課程を修了して、社会人として働くうちに、だんだん、社会活動の中にある非合理的な要素に関心を持つようになりました。
私が就職したのは営利企業だったので、できるだけコストを抑えて利益を最大化することが求められていました。
ですが、こうした合理性が推奨される一方で、実務を行う上では非合理的な言動が歓迎される場面がある。たとえば、職場の飲み会なども、合理的に考えればやる必要はないけれど、根強く残ってきたわけです。そういった、論理だけでは説明できない物事に対する関心が強まっていきました。
ただ、いち会社員がその面白さを主張することは、会社の中ではあまり求められてはいない。「会社」という仕組み上、利益をどう追求していくか、どう効率的に業務を回していくかが優先されるので。自分が気になったことを追求していくなら、やはり研究が一番向いているのかな、と思って、博士課程進学を決めました。
——興味関心を横に置いたまま、モヤモヤしながら仕事するよりは、ということだったんですね。一度組織に所属したからこそ、自分の興味関心が鮮明になった、ということもありそうですよね。
そう思います。社会人として働いたことは、まったく後悔はしていないんです。一度社会に出て、会社という共同体に所属したからこそ、「明文化できない価値観」の根強さ、奥深さを感じられましたし、研究したいという心も固まったのだと思います。
——今後の夢や野望はありますか?
私の周りには、研究者・アカデミアではない友人や知人も多いんです。中には、大学院への進学や研究そのものが、とても敷居が高いことだと思っている人もいて、私にはそれがもどかしく感じるんですね。だから、研究にあまり親しみがない人に対しても、自分がやっていることの面白さを伝えられる研究者になりたいですね。
せっかく物語という、普遍的で、誰でも触れた経験のあるものを研究対象にしているので、「物語って、実は俯瞰して見るとこんな構造があるんだ」という、自分が感じた面白さを分かりやすく伝えられるような人になりたいです。
——「神社って実は3種類に分けられるんだよ」という、あの瞬間ですよね。
そうですね。当たり前だと思って見過ごしていた日常の風景が、もう少し解像度高く捉えられるようになる——その面白さを伝えていきたいです。
——とても素敵です。私たちの「ジブンジンブン」のミッションとも重なるところを感じました。解像度が上がるって、楽しいことですよね。小柳さんが、今後どんなことを伝えていく人になるのか、楽しみになるお話でした。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。







