ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。
第五十八回となる今回のインタビューでは、東京大学大学院で比較教育社会学を専攻し、大学生の在学中の活動と就職活動での自己提示の乖離を、質問紙調査による量的アプローチとインタビューを組み合わせて研究されている山口ゆり乃さんにお話を伺います。「学チカ(学生時代に力を入れたこと)」をキーワードに、採用選抜のあり方が大学教育に与える影響、そしてAI時代の選抜の行方を見つめる研究者です。
AI採用時代の選抜論
——「学制は面接で話を盛るよね」と誰でも言いますが、「実際どれぐらい盛っていたのか」を調べようとする方はあまりいない。しかも「それはどうやって分かるのか」という、方法の面白さがありますね。
量で見たいというのは、わたしの個人的なモチベーションです。もちろん、インタビューも組み合わせて調査するようにしています。実際の活動と語られる活動とになぜ乖離が生じるのか、結局は話を聞かないと分からないので。
とはいえ、個人的なモチベーションとしては、数字で一般化したいという思いが強いです。どうにかして、これまでよく言われていることを数字に落とし込みたいという思いがありますね。か
仮に、「どれぐらい嘘をついていますか」とか「盛っていますか」と4段階で聞いたところで、何も参考にならないじゃないですしね。——問いの立て方が本当に大事ですよね。自分の知りたいことを直接聞いたところで、欲しい答えは返ってこないという難しさがある気がします。
難しいですね。私のインタビューのでは、在学中の活動をまず聞いて、ではそれを就活でどうパッケージして喋ったのか、というように各段階で聞くことで何か見えるのかなと思ったのですが、在学中のことをうまく聞けなかったんです。「この人は確かに勉強も頑張っていそうだけど、勉強のことは話さなかったな」という感覚はあったのですが、確信は持てずに終わってしまった。その辺りは少し難しかったです。
——最近は、学生も就活で生成AIを使いこなすので、ES(エントリーシート)が均質化しているそうです。企業側も選抜方法を試行錯誤していて、就活とAIの話題は尽きることがなさそうです。こういったトレンドの中で、山口さんの研究はどう展開していくイメージでしょうか?
定型的なフォーマットだと、AIで簡単にESを書けてしまうので、見極めが難しくなるのはおっしゃる通りだと思います。一方で、AIで生成したガクチカで書類選考に合格したとして、面接に進んだら、学生側もある程度は自分の本音を話したいという気持ちもありますよね。本音で話して、その会社と自分がたまたまマッチしなかったならまだいいですが、もっともらしい話を作って入社した企業は、その後働き続ける自信がない。志望動機などに比べて、経験に基づく分、面接で問い詰められたら、よっぽど嘘がうまい人以外は難しいでしょうね。ガクチカという形はなくなっていくにしても、コンピテンシー面接なども基本的には過去の経験が活きるものなので、学生生活自体は部分的にでも活用され続けるのではないかな、と思います。希望的観測ですが。
ただ、もっと考えないといけないと思うのは、ESをAIに選考させている企業のことです。その選抜は、本当に企業の意図した選抜なのか。特に、どういう情報をインプットして選抜させるのか。例えば今、企業が面接する時はきっと何らかの評価基準があって、そこに当てはまっている・当てはまっていないなどで採用を決めていると思います。けれども、その採用基準だけを機械にインプットさせて「これに合う人を取ってください」だと、今とは違うことが起きると思います。
——というと、どういうことでしょうか?
人間の選抜は基本的にバイアスがかかっているので、自分の趣味が近い人を選びやすい。もっとひどいと、人種差別もありえます。自分の属性に近い人候補者と、そうでない候補者が一人ずついた時に「この人(自分の属性に近い人)と一緒に働きたいな」と、無意識に選んでしまうのが人間です。今でこそ定量的な適性検査などもありますが、最終的には人間、自分で確認したくなるものです。人間の好み・嗜好性が入る最終選考と、それが完全に排除された初期選考はどう違うのか——それを見極める上でも、「能力というものをどう認識してきたのか」を分かっておいた方が、今後の機械選抜との違いが明らかになると思います。
——採用が変われば、今度は大学側がどうなるかにも関心が及びますよね。
学生がさらに勉強しなくなるのか、はたまた、ガクチカのネタ作りに励まなくて良くなるので逆に地頭を良くしようと勉強するようになるのか。出口の選抜に合わせて、途中経過のの教育がどう振り回されていくのか、振り回されないとしたら大学はどうしていくのか。そういった採用のあり方との関係性を、今後は見てみたいですね。教育社会学の人間としては、学生側を見ていくのもいいだろうと思っています。





