——修論のテーマはどのように具体化していかれたのですか?
過去の様々な調査からは、大学選抜度によって就職先の企業が違うという傾向が指摘されています。しかし、それがどうして生じるのか、ちゃんとつきつめた研究はあまりありませんでした。「活動的な人が就職もうまくいく」とよく言われますが、私は、それがなぜかを知りたかったんです。
今までの分析だと、「活動的な人はプレゼンをするのも得意だから、大企業に行ける」と言われることがあります。でも実際のところは、能力が評価されたのか、個人の志向性の問題なのか、いろんな問題が混ざっていて分からないのです。だから、もう少しその関連性をちゃんと見てみたいと思いました。大学の学生生活は就活で話すことの基本的な材料になりますし、それがどう就職に結びつくのかを明らかにしたい。修士・博士課程ではこのテーマいこう、思ったのが修士1年の3月ぐらいでした。
——いわゆる「ガクチカ」という言葉は、いつ頃から使われ始めたのでしょうか?
ガクチカという言葉が新聞で取り上げられたのは、おそらく2010年の読売新聞が最初です。主要な新聞の中でも早い時期の事例です。2002年ぐらいの論文には「学生時代に力を入れたこと」というフレーズではなく「大学時代に何に最も熱心に取り組んできたのか」という文言が使われています。つまり、まだ「ガクチカ」ではないのですよね。ガクチカが有名だったら絶対それを使うじゃないですか。別に「熱心」も「力を入れたこと」も大して変わらないので、多分その頃はまだスラング的な広まり方はしていなかったのだと思います。
実際、わたしが調査で「学生時代のことを、就職活動でどれぐらい話しましたか」と質問紙で聞いた時にも、2010年ぐらいに就活していた層が一番話している。もちろん回顧バイアスもあるはずなので、それが全てではないのですが、近年の方が学生生活についてより多く語っているということがわかってきました。かつ、もう一つの傾向として、「実際に熱心に取り組んだ活動」と「就活で語った活動」の乖離の度合い、その人の在学中の活動によって違う、ということも見えてきました。
——この問題意識は、山口さんご自身のご体験にも基づいているのですよね。
そうですね。私自身、川人ゼミの普段の活動も頑張っていましたし、フランス語も頑張っていたのですが、あまり就活で話しやすい内容ではないんです。川人ゼミでは、駒場祭で模擬裁判という企画をやるのですが、「法学部ではないのに模擬裁判の脚本を書くのに挑戦して、いろんな人にフィードバックをもらいました」という話を基本的にしていましたが。頑張っていたのに就活で受けなさそうだから話しにくい、というのを感じていて。
就活あるあるとしてよく語られることとして、、「テニスサークルのサークル長をしていたと話す学生がなぜか多い」というようなことが言われている。
——ありますね(笑)。サークルの副リーダーもいっぱいいるとか。
「学生は面接で嘘をついたり、話を盛ったりすることもある」という話は、先行研究では散々言われていました。一方で、どうしても語りの中身が分析の中心になるので、結局どれぐらいそれをやっている人たちがいるのかは分からないままでした。だったら、自己申告ではなく、まずは事実ベースの活動レベルで、食い違いを明らかにしようと考えました。
そうして実際に調査してみたところ、サークルのことは結構、みんな話しやすい。それに対して、バイトやゼミについては、頑張っていても半分ぐらいはそれについて話さない、という傾向が得られました。これは、ガクチカの内容だけを分析しても分からないことです。こういう点は、個人に話を聞いて調査する面白さだと思っています。
最後は、生成AIによるES作成やAI面接が広がる時代に、採用選抜と大学教育がどう変わっていくのかについて伺います。





