ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第四十六回となる今回のインタビューでは、フィリピン諸語の緻密な構造分析から、日本で生きる人々の「継承語」という新たな領域までを鮮やかに描く、林真衣さんにお話を伺います。

フィールドの経験と客観的分析手法の確立

——大学三年生からは、フィリピンの名門フィリピン大学ディリマン校へ留学されています。2019年から2020年にかけて、ちょうどコロナ禍の足音が近づいていた時期ですね。

はい。実は当時、すでに大学院進学も視野に入れていたのですが、家族からは「留学か院か、どちらかにしなさい」と言われていて。ひとまず「先にある留学に行ってしまえ」という、これまた向こう見ずな決断で海を渡りました。

——現地での生活は、思い描いていたものと違いましたか?

生活そのものは刺激的でしたが、2020年3月に事態は一変しました。急速にロックダウンが進み、空港も閉鎖される。社会の制度や政治的な判断を、これほどまでに生々しく突きつけられたことはありませんでした。最終的には「国籍のある国に強制的に引き戻される」という現実に、寂しさと、個人では抗えない国家という構造の強さを感じながらの帰国となりました。

——研究への影響も大きかったのではないでしょうか。

現地でのフィールドワークが制限されたことは確かです。ですが、この留学は私に決定的な心境の変化をもたらしました。それまでは「言語というシステム」そのものに興味があったのですが、実際にフィリピンで暮らし、多様な言語に触れる中で、「フィリピンの言語だからこそ面白いんだ」という情熱が、理屈ではなく実感として湧いてきたんです。

——それは、具体的にどのような発見があったからですか。

フィリピンには数多くの言語がありますが、実はそれらには共通した文法構造が横たわっています。先ほどお話しした複雑な動詞の活用も、フィリピンの多くの言語で共通して持っている特徴なんです。

何千年も前に、別々の地域へと分かれていった人々が、これほど異なる環境や文化の中で暮らしながら、なぜ言語の根幹にある構造を同じように持ち続けているのか。この不思議な類似性を目の当たりにした時、時空を超えた、言語や人間の「祖先」の存在に触れたような気がしたんです。

——バラバラになったはずのものが、言葉の奥底でつながっている。それはロマンがありますね。

はい。当時はまだ遊び半分でしたが、現地の街中で出会った人たちに「あなたの出身地の言語では、これなんて言うんですか?」と聞き歩いては、その構造を自分なりに分析していました。参考書のないところから言語の知識を得ていくような、あの暇つぶしに近い作業こそが、私の研究の原点かもしれません。