ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第四十二回となる今回のインタビューでは、法学部出身という異色の経歴を持ちながら、現代における個人化された「ハレ」の身体的実践を鋭い感性で分析する民俗学研究者、堀田奈穂さんにお話を伺います。

キャリアの変遷と「合理的選択」からの脱却

——本日はよろしくお願いします。事前の資料を拝見したのですが、現在は関西の大学院で民俗学を専攻されていますよね。でも、学部時代の経歴を見ると「法学部政治学科」のご出身とあり、今の研究内容とのギャップに驚きました。そもそも、どのような学生時代を過ごされていたのでしょうか。

よろしくお願いします。そうですね……正直に言ってしまうと、私がここに至るまでの道のりは、何か崇高な目標があったわけではなく、行き当たりばったりの連続でした(笑)。

——行き当たりばったり、ですか(笑)。

はい。私は子供の頃から算数が苦手だったんです。それで高校での文理選択の時も迷わず文系を選びました。

じゃあ文系の中でどの学部に行くかという話になるわけですが、とても悩みました。法律にも興味はありましたし、国際政治や国際関係論などにも興味がありました。あと、パンフレットを見たら「政治史」のゼミがあって、「歴史も学べるなら楽しそうだな」と思ったのも理由の一つです。また「法学部なら潰しが効くんじゃないか」という、いかにも高校生らしい考えもありました。こうした理由から法学部を選びました。

——そこから政治学、特にアメリカ政治史を専攻されたとうかがいました。これもまた、今の民俗学とは随分距離があるように思えますが、なぜアメリカだったのですか?

恥ずかしいんですが、映画の影響なんです。ニコラス・ケイジ主演の『ナショナル・トレジャー』ってご存じですか?

——はい、存じ上げています。アメリカの歴史的遺産を巡って冒険するアクション映画ですよね。

そうです、それです! あの映画の中で、【アメリカ独立宣言書】が重要な鍵として登場するんですが、それを見て「かっこいいな」と思いまして(笑)。それに私は子どもの頃から洋画やアメリカのドラマが好きだったんです。

そこからアメリカ政治とか国際政治にも興味を持ちました。それで、大学では西洋政治史のゼミに入りました。ゼミの先生がとても穏やかで優しい方で、好きなことをさせてくださいました。それでアメリカ建国期の政治史や外交史を学んでいきました。

——映画一本で研究テーマを決めてしまう行動力はすごいですね(笑)。そこからどうやって「研究者」という道が見えてきたのでしょうか。法学部だと、周りは就職される方が多いですよね。

大学3年生や4年生になると、周りは就職活動を始めますよね。あるいは公務員試験の予備校に通ったり、法科大学院を目指してダブルスクールに通ったり。

でも私は、「面接」というものがどうしても苦手で。緊張しいなので本当に苦手で…。「就活をしたくない」という気持ちもあったのと、アメリカ外交史がとても楽しかったのもあり、大学院の修士課程に進むことにしました。

修士1年の間に、就職するか博士課程に行くか悩みました。そして、就職しても大学院に戻ってくることは出来るけど、逆は難しいな、ということも考え就職することにしました。研究者の道に進む友人もいましたが、やはり不安定な世界ですし、当時の私はその不安定さに耐えられなかった。それで就職活動をして、法律事務所の事務職員として働くことになったんです。

——法律事務所での勤務はいかがでしたか? 法学部出身ですし、ある意味では「王道」のキャリアとも言えますが。

仕事自体は、嫌ではありませんでした。事務作業も性に合っていましたし、職場の人間関係も悪くなかったです。なので結構楽しく働いていました。ただ、法律事務所というのは、どうしても「人間の揉め事」が集まる場所なんですよね。

——確かに。穏やかな用事で法律事務所に来る方は少ないでしょうね。

そうなんです。一番苦手だったのは「怒っている人」の電話対応でした。受話器越しに怒鳴られたり、切羽詰まった感情をぶつけられたりする。上手く自分のなかで対処できる人もいますが、私はあまり得意ではありませんでした。

——なるほど。

そういった経緯もあり、丸3年働いた時に思い切って辞めました。

——次の転職先が決まっていたわけでもなく?

全くのノープランです(笑)。しかも時期は2021年、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が始まって、世の中がどうなるか分からないというタイミングでした。常識的に考えれば、安定した仕事を手放すべき時ではありません。当時は色々考えていたはずなのですが、今はあまり覚えておらず…。たぶん、世の中の鬱屈とした雰囲気のなかで、気分を変えたくなったんだと思います。

次回は民俗学の門を叩く経緯について伺います。