ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第四十二回となる今回のインタビューでは、法学部出身という異色の経歴を持ちながら、現代における個人化された「ハレ」の身体的実践を鋭い感性で分析する民俗学研究者、堀田奈穂さんにお話を伺います。

民俗学への転身とフィールドワークの葛藤

——その衝動的な退職が、結果的に民俗学への入り口になったわけですね。そこでなぜ、再び「大学院」、しかも全く畑違いの「民俗学」を選ばれたのでしょうか。

退職して少し時間ができて、これからどう生きようかと考えた時、ふと思ったんです。「これまでの人生で選ばなかった方の選択肢を選んでみようかな」と。

昔から、歴史や文化、慣習や言い伝え、妖怪や神話などに漠然とした興味がありました。でも、それを口にするのがなんだか恥ずかしかったんです。別に誰かに否定されたことがあるとかではないんですが。ただ、大学進学の時から、そちらは選ばず、同じぐらい興味のあった国際政治とかアメリカ外交史を選んできました。

——大人になって鎧を脱いで、かつて素直に好きだと言えなかったものに向き合おうと。

そうです。それで、本を読んで面白いなと思った今の指導教員の島村恭則先生に研究室訪問のメールを送りました。

「法学部出身で知識もゼロですが、学びたいです」と。この時もとても緊張しました(笑)。

——すごい行動力です。先生の反応はいかがでしたか?

すごく丁寧に返信をくださいました。「入試のためにはこの本とこの本を読むといいよ」と具体的なアドバイスまでいただいたんです。

後から知ったんですが、私が受験した年は、たまたま社会人で大学院を受けようとしている方が他にもいて。もしかしたら院試の相談に慣れていたのかもしれません(笑)。おかげで、なんとか合格することができました。

——晴れて民俗学の道へ進まれたわけですが、実際に学んでみていかがでしたか? 外交史のような文献中心の研究とは、アプローチが全く違いますよね。

ギャップは色々ありました。一番の壁は、やはり「フィールドワーク」でした。民俗学といえば、調査地に入って、見ず知らずの人に話を聞いたりします。でも先ほども言ったように、私は人見知りで緊張しいで…。入学してから「あ、私、知らない人に話しかけるの苦手では…」と気づいて(笑)。

——それは致命的ですね(笑)。

本当に。実は、「引きこもりの民俗学者」になれないかと本気で考えました。でも、さすがにそれでは民俗学者としてやっていけないので、覚悟を決めてフィールドに出ました。

やってみると、調査地の方々が本当に優しくて。よそ者の私を受け入れて、いろんな話を聞かせてくださったんです。そのおかげで、「人見知りなりに、誠実に話を聞けばなんとかなる」という自信がつきました。

——「話を聞く」という行為自体に、面白さを感じるようにはなりましたか?

そうですね。色んな人の色んな話を聞かせてもらえる、というのはとても貴重でとても面白い経験です。外交史ももちろんとても面白かったのですが、それとは違った面白さがあります。民俗学のフィールドワークでは、「このお祭りの時、なぜかこの手順だけは変えないんだよね」とか、「理由はわからないけど、これをすると安心する」といった、個人の生活実感や、理屈では説明できないこだわりに触れることができます。

私はたぶん、自分自身の内面を掘り下げることにはあまり興味がないんですが、他者が持っている「その人なりの大切なルール」や「その人なりのお守り」、「生活の知恵」や「生活の中のひそかな抵抗」みたいなものを観察するのは、すごく好きだと気づきました。たぶん、人間の営みにずっと興味があったんだと思います。

最後は現在の研究テーマについて伺います。