ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第六回は地域博覧会研究のHさんです。

興味を持ったきっかけ

Q1-1. 本日はインタビューよろしくお願いします。まず最初に自身の研究に興味をもったきっかけを教えていただけますか?

こちらこそよろしくお願いします。そもそものきっかけは、学部1年生のときに、必ず単位を取らなければならなかった人文系科目のカテゴリで、「日本美術史」の授業をとったことです。幼少期から家族で美術館や博物館によく連れていってもらい、文化や芸術のことを考えるのが好きでした。

その授業ではテキストである『日本美術史』[1]https://bijutsu.press/books/1582/の章を順番に追いかけながら読み進めていきました。中でも近代(明治~大正期)の章が一番面白いと感じましたね。

ーーそれは何か理由があったのでしょうか?

というのも日本の伝統工芸技術を活かして、見た人の度肝を抜くような巨大な彫刻や、超絶技巧のやきものが作られていたんですね。それらが博覧会を通じて外国に輸出されていました。宮川香山の真葛焼なんかはこんにちの展覧会でも人気(「高浮彫」とか「宮川香山 蟹」とかで検索すると面白いやきものがでてきます)。

▲I褐釉蟹貼付台付鉢(1881年、重要文化財東京国立博物館蔵)

日本がいわゆる近代化を進める歴史は、「日本とはこういう国です!」と自己プロデュースする過程でもあるし、外国から「日本ってこういう国だよね」という評価を内面化して「そうかあ日本ってこういう国なのか、そうだよね」となっていく相互作用が生まれる時代でもあったんですね。その時代にどんな物の見方とか考えが渦巻いていたのかとても気になり、その舞台となった博覧会を掘り下げるのがおもしろそうだと思ったのが研究の直接的な動機です。

ーーそもそも博覧会研究というのは何がきっかけで行われるようになったのでしょうか

今は2025年の大阪万博が目前に控えていますが、その前の1968年の大阪万博がきっかけで問い直しが行われたというのが通説です。

博覧会の起源である西洋では産業革命やナショナリズム[2] … Continue readingの文脈で語られることが多いですが、それが日本に持ち込まれる中でどのような視点が獲得されていったかは非常に重要です。

たとえば明治初期の博覧会ではありものの施設──お城とか、大名のお庭とか──を使って、ありものの人とモノを呼んで行うということをしていましたので、西洋とはかなり事情が異なるわけです。

今の万博に対する視点を基準に過去の博覧会を見てしまうと、取りこぼしてしまう視点や論点が多いと思います。

References

References
1 https://bijutsu.press/books/1582/
2 近代国家の特徴とされる、所属する国民に対して国家という共同体への帰属意識を創造する思想・文化・政治的運動のこと。
博覧会は文化工芸品などの展示を通じて国家という共同体意識・アイデンティティの形成に寄与してきた。