ーー肩肘はらずにみんなと意見を交わせるのも楽しそうですね!

そうなんです。教養のゼミだから、法学部や工学部に進学する学生さんもたくさんいて楽しかったです。その授業がきっかけで、社会の変化や時代の変化を見てみたいなと思って、3年生になるときに文学部の日本史学専修に進むことにしました。

ーー 社会の変化とひとくちにいっても色々な切り口がありますよね、先生はどんな視点を選んだんですか?

「紛争をどうやって解決したか」という視点です。

紛争の解決方法を見ていくと、社会の成り立ちとか、人間関係や組織のあり方の根本にある変化が見えるかなと思いました。

卒業論文と修士論文では、11~12世紀の荘園[1] … Continue readingの裁判や、慣習的な法をどう読み解いていくか? というテーマに取り組みました。が、正直いうと卒論はあんまりうまくいかなかったなと。「不入の権」[2] … Continue readingというものをテーマにしたんですが、先行研究以上の新しいことは言えずで。

ーー そして、修士論文でも紆余曲折があったそうですね。

はい。いろいろあって、授業でたまたま調べた、手紙をテーマにすることになりました。11世紀に東大寺のお坊さんが書いた手紙です。その手紙について調べて、ゼミで発表してみたら評判がよくて。そのときのレジュメ[3] … Continue readingが修士論文の原型になりました。公文書は研究が進んでいますが、個人的な手紙に関する研究はまだ珍しかったんですよね。

ということで、手紙を読み解きながら、「紛争がどう解決されたか」について考えていくことにしました。紛争には、争いの当事者(原告・被告)と、争いを裁く権力者がいます。さらに、当事者と権力者の間をつなぐ仲介者もいます。私が集めていたのは、そういった仲介者が書いた手紙でした。原告・被告が裁判を起こしたときに、どうやって仲介者が紛争の解決に関わっていたか? 権力者の意見や指示が、仲介者の手紙によってどのように当事者たちに伝わっていったか? といったことに注目していました。

References

References
1 天皇家・貴族や大寺社が収益を得るために設定された領地。国家権力から公認され、免税特権(不輸権)をもち、本来は国家に入るはずだった収益を領主が直接自分の取り分とする点に本質がある。荘園という語感からイメージされる大土地所有・大農園とは異なる。
2 朝廷・国司(地方官)の使者が荘園内部に立ち入ることを拒否できる権利。西洋中世にもインムニテート(英語:Immunity)という制度があり、(不輸)不入権と訳されている。教科書的には不入権の成立によって荘園領主が裁判権を得ると説明されることが多いが、日本の場合、荘園現地の富をめぐる荘園領主と国司の間の対立のなかで登場した概念で、必ずしも裁判権の議論に結びつかなかった。
3 授業やゼミで、教員が授業を行ったり、学生が発表をしたりするとき、その内容の要点をまとめたり、引用した資料の出典を示したりするなどして、説明の補助資料とする配布物。