ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第五十九回となる今回のインタビューでは、日本におけるコンピューター利用と「計算する」ことの歴史を研究され、〈コンピュータ史〉ではなく〈コンピューティング史〉という視座から情報社会の来歴を描き出そうとされている前山和喜さんにお話を伺います。

ぜんぶ見たい少年

——日本におけるコンピューター利用、ひいては「計算する」ということの歴史を研究されている前山さん。このテーマに一発でたどり着ける人はそういないと思うのですが、幼少期からやはり、人とは違う物の見方をしている子どもだったのでしょうか。

子どもの時からいろんなものを集めたり、全部見るのが好きだったんですよね。網羅性が高いというか。近くのデパートのおもちゃ売り場でミニカーを全種類買ってしまって、買うものがなくなって泣いていたらしいです。もう覚えていないのですが。

——すごい。収集癖というか、全部手に入れて全部知らないと気がすまないタイプだったんですね。そうなると図鑑や辞典とはすごく相性がよさそうですが。

そうなんですよね。ただ、家にあまり本棚がないような家庭で育って、勉強自体はあまりしてこなかったんです。ただ、小学生の時の教室にNHKの『その時歴史が動いた』の漫画版があって、あれは全部読んでいました。

——松平定知さんの名アナウンスでおなじみの番組でした。ご家族も、欲しいと言ったら揃えてくれる方々だったんですね。

はい。そのあたりは理解のある家庭でしたが、勉強しろとはあまり言ってこなかったですね。

——学校の授業はあまり楽しくなかったですか。

いや、そんなことはなくて。言われた勉強は一切しないのですが、授業は全然楽しく受けているし、別に嫌じゃないんですよ。基本、全部好きなんです。嫌いなものがあまりなくて。

——あまり苦労せずに何でも好きになれてしまうタイプ、ということでしょうか。

はい。嫌いなものの方が珍しいです。こだわりもあまりなくて、好きな食べ物もないんですよ。食べたことないものが好きなので、好きな食べ物を聞かれると困るし、欲しいものも欲しかったら基本買ってしまう。まず買うところから始めてしまうタイプで、あまり欲しいものもないんですよね。

——ご本人にとっては、そうとしかならない、というロジックなんでしょうね。

はい。だからそれが勉強だろうと遊びだろうとあまり関係なくて、好きな科目も嫌いな科目も特にないんです。英語だけは苦手というか、勉強しないので一生できるようにならないのですが(笑)。それ以外は、興味があれば本を読んだりして。

あとは人と話すのも好きで、小中高時代、僕に見つかったら逃げ出す先生がいるとよく言われていました。捕まると、もう先生よりベラベラ喋ってしまうタイプなので。放課後に真面目に付き合ってくれる先生がまあ少しぐらいで、基本的には仕事妨害をするタイプの人間でした(笑)。

——学校って、「何にでも興味関心を持ちなさい」「子どもの個性を伸ばす」と言うには言いますけど、本音では、ルールに従って大人しくしてくれる子どものほうがいいと思っているふしがありますからね。

そうですね。あと、僕、怒られることもあまり嫌じゃないんですよ。本来やるべきことをやらずに、やりたいことをやって生きている人間なので、大人になった今でもよく怒られます。そんな調子だからか、僕には「個性を持ちなさい」みたいなことを言ってくる大人は一人もいないです。もともと好き勝手やっていましたから。

——とはいえ、どこかのタイミングで、大人からは「そろそろ進路を決めなさい」「文系・理系の選択はどうするの?」と言われますよね。前山さんも、そういうことに合わせていく時期はありましたか。

それが多分普通の人は来るんだと思うのですが、僕には来なかったんです。未だにないですよ。好きなことをやっているだけなので受験勉強は一切したことがありません。実は受験シーズンもなくて、博士まで推薦(面接)か、僕だけのために作られた入試問題を受けるだけで来ました。

——小中が公立ですもんね。高校の時点で受験が来なかった。

はい。親が大学には行ってほしいと言っていて、ただ僕は一切勉強しないタイプだったので、中学の成績で推薦入試で入れて、大学がエスカレーター方式で入れる高校に入りました。

——受験しない人生を先取りしていますね。

何て言うんでしょうね。うまくいったタイプのゆとり教育だと思います(笑)。文系理系のコース選択もなかったし、試験対策みたいな勉強を本当に一切したことがないので。普段の成績で推薦入試で入れる高校に入って、それが駒澤大学の付属高校だったのですが、駒澤大学なら歴史のところがあるし、基本入れば大学まで一応入れるというコースだったんですね。

——歴史を専攻するのかな、という展望はあったんですか。

でも、それも歴史をやりたいと強く確信していたわけではなかったです。高校は基本文系の学校なのですが、そこで科学研究部に入っていました。

——おお、なぜまた。

先生に誘われたんですよ。当時、部活にも入っておらずぼんやりしていたので、顧問の先生に拾ってもらったんです。その頃からクラスでちょっと浮いているというか、突き抜けてやっているタイプだったので。それと、パソコン室の先生と放課後ずっと喋っていたんですよ。夕方まで常駐している先生だったので、時間があったから僕みたいな人間が喋りに行っても怒られなかった。それでコンピューター室にずっと入り浸っていたわけです。

——前山さんの知識の覚え方について、もう少し聞かせてください。「ネットワーク的な知識の覚え方」とおっしゃっていましたが。

例えば僕、映像を高校生の時から絶対に2倍速以上で見ているんですよ。1倍速で何かを見たことがほぼない。

——怒られそうですが、もう少し聞かせてください(笑)。

音楽も倍速で聞けるなら1.5倍速ぐらいで聞くほどで、とにかく情報をバーッと入れることが好きなんです。

——情報の海に溺れている状態というか、負荷がかかっている状態がお好きなんですか。

いや、必ずしも負荷がかかっている状態じゃないと嫌だということはないです。全くかかっていないか、めちゃくちゃかかっているか、その2つが好きなんですよ。中途半端が嫌なんです。だから高校生の時からもう18きっぷで10時間くらい電車に乗り継いで、30都道府県ぐらい1人で旅行していたし、年賀状を手渡しで20人ぐらいに配っていて、2〜3ヶ月かけて歩いて、ひどいと1日60km歩いたこともあります。

——人間って60km歩けるんですね……。テレビも2画面で倍速で見るんですよね。

そうですね。例えばプロジェクトXは元々テンポが遅いので4倍速ぐらいで見ています。聞き取れなくなるぐらいの速度がちょうどいい。語学学習用の字幕アドオンをつけて、Netflixなども信じられないぐらいの速度で見ています。

——ちょっと超人の話になってきましたが(笑)。

ラボの同僚に「おぞましい!」って言われました(笑)。分析美学の研究をしていて、映画などのフィクションがどのように人の感情を喚起するかについて研究されている方ですよね。かたや僕はNetflixで映画を4倍速で見ていて、2時間の映画が30分かからず終わってしまう。でも僕は感情を喚起したいと思っていないんですよ。『ジョーズ』ってこういう映画なんだ、という事が知りたい。ただ、ファスト映画はダメなんです。カットされてしまっているから。僕は全部見たいタイプなので。

次回は「Wikipediaになりたい」と願書に書いて工学院大学に進学した前山さんが、なぜ理系から文転に踏み切ったのか、その転機となった「コンピューター博物館の不在」をめぐる気づきを伺います。