ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第四回はモンゴル帝国史研究の向正樹准教授です。向先生は同志社大学にて、グローバルな視点のアジア史や中国語を教えています。

興味を持ったきっかけ

Q1-1. 本日はインタビュ本日はよろしくお願いいたします。まずは、「モンゴル帝国史」というテーマとの出会いについて教えてください。

よろしくお願いします。最初にモンゴルとチンギス=ハンに興味をもったのは、高校生の頃でした。

当時、ソビエト連邦が倒れ、その強い影響を受けていたモンゴルも民主化が進みました。そのなかで、ソビエト連邦の社会主義体制下ではネガティブな評価を受けていたチンギス=ハンが、“民族の英雄”として再び評価が上がっていったんです。そのことが日本でも報道され、知られていました。

そのころは日本でも、モンゴルブームが起きていました。NHKで特集番組「大モンゴル」が放送され、そのテーマ曲集が冨田勲[1]冨田勲(1932~2016)は日本の音楽家。日本におけるシンセサイザー音楽の第一人者。によって制作され、関連して「大モンゴル」展が開かれ、日本・モンゴル共同制作の映画「チンギス・ハーン」が公開され、その主題歌をモンゴル人の歌手オユンナが歌って……というふうに、一種のメディアミックスのような形で盛り上がっていたんです。そして、学術的にも当時、チンギス=ハンの墓を探す「ゴルバンゴル・プロジェクト」が行われていて、新聞で記事になっていました。

▲内モンゴルで開かれた学会のエクスカーションで泊まったテント

大学生になってからも、モンゴル帝国史への興味は続きました。日本では当時、中堅・若手に多くのモンゴル帝国史研究者がいました。盛り上がっている研究テーマなんだな、という印象がありましたね。学部時代にそれらの論文を読んで理解を深めていきました。

小学生の時に読んでいた歴史漫画では、モンゴル人のイメージは「血に飢えた殺戮者」という感じ。しかし、NHK特集「大モンゴル」や、この番組制作に協力した歴史学者[2]代表的な歴史学者に、杉山正明がいる。たちが、モンゴルや遊牧民のイメージを塗り替えるような成果を世に出していきました。論文だけでなく、一般向けの本やメディアを通じて新しいモンゴル像を広めていき、教科書も劇的に書き換えられていったんです。そのような一連の流れのなかにいたから、モンゴル時代を専門に選んだ、というのが大きいですね。

References

References
1 冨田勲(1932~2016)は日本の音楽家。日本におけるシンセサイザー音楽の第一人者。
2 代表的な歴史学者に、杉山正明がいる。