ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第三十九回となる今回のインタビューでは、オペラとマンガを横断する「アダプテーション(翻案)」の可能性を追究されている、笠原真理子さんにお話を伺います。

理想と現実の狭間、そして舞台の裏方へ

——予備知識があることで、最初から作品世界に入り込めたのですね。

音楽の授業で断片的に聴くのとは全く違う、総合芸術としての迫力に圧倒されました。それ以来、オペラ鑑賞が好きになり、同時に「研究者になりたい」という夢も抱くようになりました。

ただ、その頃なりたかったのはオペラの研究者ではなく、「考古学者」だったんです。

——考古学者ですか? オペラとはまたちがった分野ですね。

これも漫画の影響なんです(笑)。小学校低学年の時に初めて読んだ漫画が『王家の紋章』だったのですが。これは、エジプトで考古学を学ぶ主人公が古代にタイムスリップする物語で、はまってしまいまして。「私は将来、考古学者になって、秘宝を見つけるんだ!」と信じて疑いませんでした。

さらに、当時テレビによく出演されていた青柳正規[1]青柳正規(1944-):東京大学名誉教授、古代ローマ美術・考古学が専門。先生(後の文化庁長官、国立西洋美術館館長)が、イタリアでの調査の合間で美味しそうなご飯を食べている姿を見てしまいまして。「考古学者になったら、毎日あんなふうに発掘して、合間には美味しいものが食べられるのか」と、完全に誤解したまま憧れを募らせていました。

——中高生らしい、夢のある誤解ですね(笑)。

本当に(笑)。中3で卒業論文のようなものを書く機会もあり、自分は「ポンペイ」を選ぶくらい考古学一直線でした。それで東京大学に入学したのですが、大学入学後に青柳先生ご本人にお会いする機会に恵まれたんです。

そこで「先生に憧れて考古学者を目指しています」と伝えたところ、先生から返ってきたのは、「考古学者になるには具体的に何をしなくてはならないか」そして、「発掘を続ける生活は楽しいけれども中々大変だがそれは十分に理解しているのか」という現実的なお話でした。

——おおーそれはなかなかリアルな……先生なりに、真摯に向き合ってくださったんですね。。

家に帰って母にその話をしたら、「あなた…もしかして本当に毎日宝石とかがザクザク出てくると思ってたの?」と呆れられまして。そこでようやく「あ、漫画の世界とは違うんだ」と気づき、考古学の道は違うかもしれないと思い始めました。

——早めに気づけてよかったのかもしれませんね。そこから、どのように現在の専門分野へシフトされたのですか?

進学振り分けの時期に、「美学芸術学」というコースがあることを知りました。「芸術学」という単語が入っているのを見て「ここならオペラの研究ができるかもしれない」と思って進学したのですが、ここでもまたリサーチ不足を露呈してしまいまして……。

いざ入ってみると、そこは哲学系の研究室だったんです。プラトンの『響宴』やアリストテレス、カントの哲学書を原語で読み解くような授業ばかりで。もちろんその後の研究や仕事にこの時勉強したことが活きているので、あのころ無理やりにでも触れておいてよかった、と今では思うわけですけれども。当時、「オペラ楽しい!」というレベルの関心で入った私は準備不足で、あまりにハードルが高すぎました。

——「美学」は本来、美の本質を問う哲学の一分野ですものね。

そうなんです。特に、大学院に進まれている研究室の先輩が優秀な方ばかりで、「これはとんでもないところに来てしまった」と落ち込みました。ただ、その辛さを支えてくれたのが、大学で入ったオペラサークル「東京大学歌劇団」の存在でした。

——そこでは実際にオペラを演じていたのですか?

はい、演者として舞台に立つこともありましたが、私は主に裏方に魅力を感じていました。途中入部していきなり小道具のチーフを任され、小道具って何?のレベルから四苦八苦しながら楽しんでいたことも理由にあるかもしれません。自分たちで一つの舞台を作り上げるプロセスがとにかく面白くて。「週末にはサークルの活動があるから頑張ろう」となんとか乗り切りました。

その中で、演出という仕事に興味を持ち始めました。「演出家になる」という道も考えましたが、現場でプロの演出家の方々の仕事を目の当たりにして、自分にはとても難しいものだと悟りまして(笑)。それなら、研究者として演出や作品づくりに役立てる仕事をしようと、大学院からは文化資源学[2]文化資源学とはなにか、ということが気になった方はこちらのリンク先を読んでみてください。 文化資源学とは? https://www.l.u-tokyo.ac.jp/CR/outline/という分野に移りました。

最後は翻案の魅力について伺います。

References

References
1 青柳正規(1944-):東京大学名誉教授、古代ローマ美術・考古学が専門。
2 文化資源学とはなにか、ということが気になった方はこちらのリンク先を読んでみてください。 文化資源学とは? https://www.l.u-tokyo.ac.jp/CR/outline/