ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第十回となる今回のインタビューでは、梶谷真司先生にお話をうかがいます。梶谷先生といえば、学校や企業、地域コミュニティなどでの「哲学対話」で広く知られています。2023年11月には、その哲学対話の実践をまとめた『哲学対話の冒険日記 われら思う、ゆえにわれらあり』(あいり出版)を出版されました。

哲学対話との出会い

Q3. ここからは、現職の東京大学に移られてからのお話を伺っていきます。

東京大学でも比較文学比較文化コースに所属していますが、中国医学や民俗学、育児書など学際的な研究をしてきた縁なのかなと思いますね。それで東大に移って2年目くらいで、現在センター長を務める共生のための国際哲学研究センター(UTCP)に関わるようになりました。

2012年、UTCPの創設者の一人で、中国哲学が専門の中島隆博さんから「夏休みにハワイ大学と東大の共同セミナーをやるんですが、興味ありますか?」と尋ねられました。その時は軽い気持ちで「あります」と返事をしただけなのに、いつの間にか共同セミナーに行くことが正式に決まっていました。家族のほうも周りの人に「今年の夏、ハワイに行くんだ!」言って盛り上がっていましたし(笑)。

──そしてこのハワイ大学との共同セミナーが、梶谷先生とP4C(子どものための哲学)との出会いになるわけですよね。

これにはまた偶然のつながりがありました。UTCPに寄付をしてくださっている上廣倫理財団の方が「ぜひ、ハワイのP4C(子どものための哲学)を視察してきてください」と勧めてくれたんです。UTCPはハワイ大学の哲学研究所と、P4Cのセンター・上廣哲学倫理教育アカデミーにも寄付をしているので、横のつながりができると。

そこで、現地で上廣アカデミー所長のトーマス・ジャクソンさんに会って、「P4Cの様子を見たいです」とお願いしたら、「明日、学校で授業があるからぜひ来てください」と快諾してくれました。

──実際に子どもたちの授業を見てみて、どうでしたか?

哲学のイメージが変わりました。子どもたちがすごく楽しそうに哲学的なことを議論していて。シュミッツ研究で「哲学はわかっていいんだ」と思えたなら、P4Cでは「哲学は楽しくていいんだ」と思ったんです。しかもこれって大人でも楽しいし、誰でも楽しいはずだと思ったので、私はP4E(Philosophy for Everyone)として、イベントをやっていくことにしました。

それで学校に関わるようになり、地域おこしに参加したり、婚活パーティーの企画に携わったりしながら、P4Eの活動を続けています。