ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第十回となる今回のインタビューでは、梶谷真司先生にお話をうかがいます。梶谷先生といえば、学校や企業、地域コミュニティなどでの「哲学対話」で広く知られています。2023年11月には、その哲学対話の実践をまとめた『哲学対話の冒険日記 われら思う、ゆえにわれらあり』(あいり出版)を出版されました。

帰国後の出会い

Q2. 新聞や雑誌を読み漁っていた留学ですが、帰国後はどうされたんでしょうか?

結局様々な事情があり帰国することにしたのですが、日本に戻って京都に遊びに行ったとき、京都大学に人間・環境学研究科という新しい大学院ができるという情報を耳にしたんです。住むところもないことだし、受験してみることにしました。

無事に人間・環境学研究科に入学して、さてどんな研究をしようかと考えたときに、「ハイデガーと科学哲学を組み合わせて何か書けないか?」と考えていました。それで修士論文を書いたのですが、あまりうまくいかず、テーマを変えないといけなくなり、結局、指導教員が現象学の研究者だったので、ハイデガーの研究をすることにしました。

修士論文は「ハイデガーと『死』の問題について」というテーマで書き、無事に博士課程に進学できました。学部の卒業論文に比べれば、論文の出来もよくなりましたし。

でも、思えば当時は、研究とはどういうものかが、よくわかってなかった気がします。どのようにテーマを選ぶかもはっきりわかっていなかったし、「これだ!」という確信をもって研究を進めたこともありませんでした。博士1年目の発表の時点では、構想はある程度できていたものの、肝心のテーマに自分が興味を全然もてず……もう研究もやめようかなと思っていました。

そんなとき、たまたま出会ったのが、ヘルマン・シュミッツという哲学者でした。