ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第四十回となる今回のインタビューでは、非営利の文化事業や教育普及の領域を軸に、人々の集まる「場」やそこで生まれるコミュニケーションそのものをデザインするアートディレクター、富塚絵美さんにお話を伺います。

現代アートの身体性と「持続可能な文化」への転換

——それで、独自の活動ができそうな、東京藝術大学の先端芸術表現科へ進まれたのですね。

中学生の頃に担任の先生から「君のやりたいことはオックスフォード大学あたりに行けばできるけど、日本だと難しいね」なんて言われてたので、自分でやり続けるしかないと覚悟は決まっていて(笑)。消去法に近い形ですが、先端芸術表現科なら何をやっていても怒られないだろう、という直感で進学しました。そこで初めて「現代アート」というものに本格的に触れることになります。

——ミュージカルなどの「パフォーミング・アーツ(舞台芸術)」と、「パフォーマンス・アート(現代美術)」は、似て非なるものですよね。その違いに戸惑いはありませんでしたか。

大きな違いを感じました。舞台芸術は、台本があり、観客もそれが「フィクション」であるという暗黙の了解のもとで鑑賞しますよね。一方で、現代アートにおけるパフォーマンスは「行為」そのものが問われます。例えば、トタン屋根の上で足踏みをするパフォーマンスがあったとして、それが「屋根の上で足踏みをする役」を演じているのか、それとも「ギャラリーという空間にトタンを持ち込み、踏み鳴らすという行為」そのものを提示しているのか。

——現実空間と地続きの「行為」として提示されるわけですね。

ええ。例えばマリーナ・アブラモヴィッチの作品などが衝撃的でした。彼女が裸の男性と向き合って狭い通路に立ち、その間を観客が通り抜ける作品がありますが、あれは「アダムとイブの役を演じている」わけではありません。実際に生身の人間がそこに存在し、観客は見つめられ、その間を通らざるを得ないという「状況」に巻き込まれる。フィクションの守られた壁がないんです。

——その「生々しさ」や「切実さ」に触れて、ご自身の表現も変化していきましたか?

浴びるようにそういった作品に触れる中で、自然と現代アートの世界観が身体に入っていった感覚はあります。ただ、学部2年の時に自分で公演を打ってみて、痛感したことがありました。「お金がいくらあっても足りない」ということです。

——現実的な問題ですね。

必死にバイトして100万円貯めて公演を行ったのですが、たった2日間であっという間に消えてしまいました。このままでは、趣味としても続けられない。私のやりたいこと、つまり「場を作ること」を持続可能なものにするためには、マネジメントを学ばなければならないと強く思いました。それで大学院では、芸術環境創造という分野に進むことにしたんです。

——そこで再び「実家の豆腐屋的視点」というか、持続可能性への意識が戻ってきたのが興味深いです。大学院ではどのような活動を?

大学院時代は、谷中(東京都台東区)を拠点にしたアートプロジェクトに関わりました。まずは谷中地域で行われていたアートプロジェクトの手伝いをさせてもらうところからでしたが、「まちおこし」の為の芸術祭ではなく、地域の人がやりたくてやっている現代アートのイベントだったので「本当に自分がやりたいことでないと通用しない」というとても大事なことを学ばせてもらいました。そして修了制作としてプロジェクトを実施しました。「ぐるぐるヤーミープロジェクト」という活動です。

そこでは「予算なしでできるアートプロジェクト」を模索しました。お金があると、すぐアーティストとか呼んで要らないもの作るでしょ(笑)お金がないと、もっと面白いんですよ。まちにあるものをお願いして使わせてもらったり、アーティストにお金を払わない代わりに、こちらのやって欲しいことをやってもらうのではなく、やりたいことをやってもらうことになる。そうすると、文化資源の掘り起こしができるし、アーティストも育つんです。でも、それをいい感じの出来事にするには調整の手間が膨大にかかる。なのでお金がかかっていないのではないのですが、結果的に「ただ集まること」に行き着いたんです。

——「ただ集まること」。

ええ。何をするでもなくただ集まることから始めるのがポイントです。ただ集まって、解散して、またしばらくしたら集まる。それをひたすら繰り返す。心のエネルギーと沢山の素敵な出会いがないと何も起きないので、実はお金で解決出来た方が簡単というか。とってもエネルギーが必要なんですけどね。ついつい何かが生まれるのを期待して、大変なのに続けてしまう。そんなプロジェクトです。

その頃、ある美学者が「文化ってアートのことなんですよ」と言ったことがあって、頭の中が「?」で一杯になったこともありました(笑)。芸大まで来たのに、誰もアートが何かを私が納得できるかたちで説明してくれなかったぞ、と。でも、そこで妙に納得したんです。「私はアートよりも、文化の方に興味があるのかもしれない」と。そこで「文化ってどうやったら作れるんだ?なんで生まれるんだ?とにかく何か足りないと思ってる人たちと集おう!」と文化創造拠点づくりを始めました。

最後は未来の展望について伺います。