——最初に「幸福」という言葉が出てきて、それがちゃんと一周回ってきたなと、私はいま感動しています。防衛大という、一見、文学とは反対の価値観の場に身を置いて考え抜いた結論だからこそ、説得力がありました。「人間存在それ自体を大切にしましょう」ということに尽きますね。
僕からすると、すべてのものが研究対象だし。人間ってどうしても、物事や人に上下をつけたくなる。それこそ自衛隊も階級社会ですし。で、僕が見てきた限り、階級が上がるほど、間違ったことを言ってしまうんですよ。
——皮肉なことですね。
でも階級社会だと、それが通ってしまう。やっぱり人文学が得意とするのはブランド品的に「価値がある」とされているものよりも、「いちばんいらない」と思われたり、迫害されたりしているような、もっといろんなものに眼差しを向けることだと思うんです。文学は、言葉なので。「何が書かれたか」も大切だけれど、それ以上に「どう書いたか」「どう書かれたか」に着目する学問なんです。だから、言葉は、その人がどう感じているか、その社会がどう考えているかを読み取る、すごく重要な、基本的なものなんです。僕はもうそれしかないと思っているくらいだけど、ある種の空気みたいなものだから、みんななかなか気づかないのかな、と思います。
——空気のようなもの。だからこそ、それがないと生きていけないし、気づいた人から楽しくなる、ということなんでしょうね。実際、中丸先生はそれに気づいて、面白いと思ってこの道を選んだ。
不思議なのは、僕、とにかく「みんなの言うこと」を聞いてきたんですけど、数値では決めてこなかったんですよ。「就職率が」とか「倍率が何倍だから」とかの理由で、みんな意思決定しがちじゃないですか。でも、結果として——これは嫌味に聞こえるかもしれないけど——就職できたし、なんとかなるんですよ。
「なんとかなる」というのは、好きなことをやっているから後悔がない、ということです。嫌なことをやって何にもならなかったら、人の悪口を言いたくなるけど、自分で選んだんだから納得できる。好きなことだから、諦めもつくんです。
——好きだからこそ諦めもつく、というのは、あまりない視点な気がします。
「こんなに好きなのにうまくいかないなら、まあ、しょうがない」という感じです。何かを得るためには何かを手放さないといけない、というのはなんとなくわかっていたので。「好きなことができているからいいか」くらいの楽さはありました。もう少し肩の力を抜いて、フラフラ生きていいんじゃないかと思うんですよね。
僕が結婚して気づいたのは、「僕が楽しいことはみんなも楽しいはずだ」という思い込みが打ち砕かれたことで(笑)。結婚は、制度としてすると失敗する。本当は対話だと思うんですよ、自分とは異なる相手と向き合うこと。愛する妻が、自分の好きなものを理解しない、という事態に直面したとき、「人間には好きなものがそれぞれあるんだ」という基本的なことに気づいて。
ということは、みんなが好きなものをやればいい。僕が好きなことは、たぶん人が嫌いなことだったりするんですよ。「古典文学なんて、日記なんて、読まされたら地獄だ」という人もいるはずで。でも僕は好きだからやる。それが多様性なんじゃないかな。
——好きなものが見つからない人は、どうすればいいんでしょう。
感覚で「あ、こっちがいいな」というのを選べばいいんです。失敗したら「これは違ったんだ」と経験値を上げていけばいい。
難しく考えずに。僕は子どものころから植物が好きで、農業が好きで東京農大に行きたいと思った時期もありました。それから電車や鉄道も好き。そして日記が好きで。
僕、40を過ぎて、これらが全部つながっていることに気づいたんです。「あ、同じだ、時間と空間の問題なんだ、これは」と。それぞれ違うところで好きだったものが、この年齢になってつながった。
——それも、文学研究の「抽象化する」という考え方があるからこそ、「これ全部、時間と空間ってことじゃん」という発見ができた、ということですよね。
そうです。抽象化とともに構造化してものを見る。それは文学の方法で知りました。ほかにもまだあるんじゃないですか、つながるものが。もしかしたら音楽も向いている気がしてきましたよ。天文だって、星の巡りも電車のダイヤグラムと通じるものがあるし。
——中高生のみなさんも、好きなものが見当たらなくても、感覚に従って行ってみたら、文学の方法によって「あ、あれじゃん」とつながる瞬間が来るかもしれない、ということですね。
親の立場になれば、不安でしょうけどね。でも、これは社会の問題でもありますし、親を安心させるために子どもが犠牲になっちゃいけないと思うんですよね。だから親御さんには言いたい。自分の不安を、子どもにぶつけないでほしい。
——「なんとかなる」と思って、背中を押してあげてほしい、と。このインタビューで保護者向けのメッセージが出てきたのは、たぶん初めてです(笑)。今日は、ただの聞き手として聞かせていただきました。本当に面白かったです。
すごい適当に喋ったんですけど、大丈夫でした?(笑)
——いい意味での「適当さ」に私も助けられて、楽しくお聞きできました。ジブンジンブンの志と重なる部分もたくさんありましたし、またお話の機会があるとうれしいです。
もちろんです。また協力できることがあったら、よろしくお願いします。





