ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

初回はミュシャ研究のMさんです。

興味を持ったきっかけ

Q1-1. まず、研究のテーマについて簡単に教えてください。

ミュシャ[1]アルフォンス・ミュシャ(Alphonse Maria Mucha(チェコ語表記はAlfons Maria … Continue readingが描いたポスターがどうしてあの時代(1896-1905) 、4~6年くらいの間に爆発的な人気を得たのか、どうして評価されたのか? ということです。彼の作品は美術史上は世紀末芸術の中に含まれますが、ミュシャ自身はその時代だけに活動していたわけではありません。ところが、それまでも活動していた画家が一躍ポスター界の寵児になったわけです。

サラ・ベルナールをモデルとしたポスター《ジスモンダ》(1894)

Q1-2. そもそも、ミュシャがその時代に人気を得たということはどうやって分かったのでしょう?

美術史をやるときには、作品を集めたカタログ・レゾネ[2](Catalogue … Continue readingを確認します。それを見ていると、ある時から描いている作品がガラっと変わったり、発表数が増えることが分かります。

研究が始まってから、当時の美術雑誌やポスター雑誌や批評雑誌を全部みたのですが、1894年までは姿を全く表さないのに、95年の後半以降に批評や宣伝の記事が突然増えています。このころからミュシャの存在感と評価が高まっていたことは明らかです。

また、彼のポスターは今の日本でも人気で、何度も展覧会が行われていますが、そこで公開されている作品の公開年が短期間に集中しています。

ポスターにフォーカスをあてた展示会では、彼が人気を得る前の時代にはあまり触れられません。彼の画業として一番有名なのがなぜこの時代?ということは気になっていました。

Q1-3. ちなみにミュシャは人気になる前はどんな状況だったのですか?

活動期間としては1885~1920年にあたります。活動を始めて10年ほど無名の時代がありました。また活動期間の後半についても、美術的評価・研究ともにあまり取り上げられない傾向にあります。

一度パリの展示会で戻ってきましたが、他のチェコの画家のバーターとして取り上げられたに留まります。

作風に関しても、売れていた期間の前後で変わっているところと変わっていないところがあります。

▲ミュシャの画風の変遷(計4枚)

References

References
1 アルフォンス・ミュシャ(Alphonse Maria Mucha(チェコ語表記はAlfons Maria Mucha[ムハ]、1830-1937)。19世紀末から20世紀初頭にかけて、パリ、プラハで活躍した、ポスター画家・画家・イラストレーター。当時の大女優サラ・ベルナールをモデルとしたポスター《ジスモンダ》(1894)など、19世紀末のアールヌーヴォーのポスター芸術を代表する芸術家として知られる。晩年は、チェコを中心とするスラヴ民族の民族意識に焦点を当てた絵画などの制作を行った。
2 (Catalogue raisonné)
芸術家や美術館、コレクションの全ての作品のデータを網羅した文書。作品図版やタイトル、制作年、素材・技法、寸法だけでなく、作品記述や来歴、展覧会歴、文献歴なども記載される。