Q5-1. 大学の外で学ぶ上で難しそうな点といえば、思い浮かぶものはありますか?

大学図書館やデータベースの利用が難しいかもしれませんし、研究仲間がいないということもよく聞きます。しかし、それ以上に大きいのは、モチベーションの維持かなと思います。

ーーモチベーションの維持。例えば、「こうしよう!」と自ら目標を立てて行動する、といったことでしょうか。

それも含まれます。修士論文や博士論文は、あらかじめ設定された大きな目標です。締切も厳しいし、プレッシャーも大きいので、なんとかがんばらなくては!と予定を立てて行動できます。

ところが、大学院を出たら、今度は自分で研究を進めていかないといけません。これが意外と難しい。科研費[1] … Continue readingを取得して、成果を公開できるようにちゃんと研究するぞ! とかもありますが、修士論文・博士論文ほどのプレッシャーではないです。史料を読みながら、楽しいな~面白いな~と思っていたら、いつの間にか時間が過ぎている、みたいなことが増えてくると、「本当にこのままでいいのか?」という気持ちになってきます。

ーーそれはなかなか切実な問題ですね……それで、いかに目標を自分で設定するか、ということが大切になってくると。

目標を自分で作り出さないと、モチベーションが維持しづらいですし、少なくとも私の場合はそうです。私の同僚で、すごいなと思ったのは「海外の英語論文雑誌に、査読付き論文を出すぞ!」とブログで宣言している人ですかね。日本史研究者だと、業界が狭いこともあって、あまりそういう人は見かけませんが……。

「研究が好き」というのは、研究を続けるための基本のモチベーションではあります。しかし、一生のテーマをどのように追いかけていくか? というプランとなると、また別な難しさがある。私が新書『御成敗式目 鎌倉武士の法と生活』(中公新書、2023年)を書いたのも、漠然と研究をするのではなく、「何かしらの形で成果をまとめて、人に伝えるためにアウトプットしよう」「まとめるなら、誰でも手に取りやすい本にしよう」という思いがあったからです。本を書くために、ちょっと自分に負荷をかけて、いつもより集中的に勉強したんですが、楽しかったですよ。

ーー これ、今回のインタビューで想定している読者、「独学者」にも同じようなことが言えそうです。人に伝えるためにアウトプットすることって、いい目標になりますよね。

私も学生に対して、何か本を読むなら「こういう本を読んで、こうだったよ」と人に伝えるつもりで読むといいよ、と伝えています。新書を一冊読むにしても、書評を書いてwebサイトに公開するとか、親しい人に感想を話してみるでもいい。そういう目標を立てると、いつもよりちょっとまじめに読むようになるし、面白いポイントを自然と探すようになります。

私自身、新書を書くときに、最終的に人に伝えるつもりで史料や先行研究を読んで、読み方が変わったなと実感しました。2012年に自分の博士論文を本として出版して以来、ひとりで本を書くのは実に11年ぶりでしたが、やってみて本当によかった。「アウトプットするつもりで読む」というのはいいトレーニングになるし、モチベーション維持にもつながります。

ーー たしかに、感想や批評がもらえるのもうれしいですもんね。

そうそう、『御成敗式目-』 を読んでくれた人たちが、ブログやソーシャルメディアで感想を書いてくれているので、ときどき検索して拝見しています(笑)。大学の授業で学生からもらうコメントペーパーやレポートとは違う面白さがありますね。

最後は学会やコミュニティ、初学者向けのデータベースなどについて伺います。

References

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1 科学研究費助成事業(科研費)とは、「人文学、社会科学から自然科学まですべての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究費」であり、ピアレビューにより、豊かな社会発展の基盤となる独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです」。
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/