Q3-1. 研究をしていてどんなところが面白かったですか?

ーー「日本中世社会における法と文書の利用」というテーマ、最初はあまり想像がつかなかったですが、だんだんイメージがわいて面白そうだなと思えてきました。佐藤先生ご自身は、研究をしながら、どんなところが面白いと思いましたか?

法や文書に書かれていることを表面的に受け取って「ふーん、そうなんだ」では終わらないところです。

日本中世は、7~8世紀に中国から導入した律令制の国づくり――いわば、古代国家の遺産の上に成り立っています。そのため、中世の裁判や権力者の発給文書だけを読んでいると、とても強いトップダウンの政治に見えます。上意下達で、律令国家らしい官僚制の発想がまだ強く続いているような。

しかし、判決文書が実際にどのように使われているのか? という部分に踏み込んでいくと、必ずしも「強いトップダウン」とはいえない側面が見えてきます。

前提として、日本中世には、いわゆる「裁判所」はありません。地域の権力者が(地方官や領主)が裁判をします。判決文書をひもといていくと、判決を出した権力者と、当該案件の被告とに、従属関係がある事例が多いことが分かりました。つまり、原告が獲得した判決文書は、第三者的な裁判官が判決を出したというものではなく、権力者が主人として被告をこれ以上保護しないという意味合いがあります。

ーー なるほど……最初から「鎌倉幕府の裁判はきっとこんなふうだろう」「現代の裁判の常識からして、判決は第三者的で客観的なものであるはず」のような先入観にしばられていると、この結論にはたどりつけないですよね。

そうです。こうした事例を集めながら、法や判決あるいは文書が、表面的に書かれているものとは異なる役割を果たしていくこと、そこに中世社会の実情に即した人びとの法・文書利用を見出しました。そのようなことを一点一点の史料や事例に即しながら具体的に考えていくことができるのが歴史研究の面白い点だと思っています。

次回は初学者に向けたアドバイスについて伺います。