ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第三回は哲学研究のOさんです。

興味を持ったきっかけ

Q1-1. 本日はインタビューよろしくお願いします。まず最初に今回のテーマですが、タイトルがなにやら難しいですね。少し説明をお願いできますか?

よろしくお願いします。まず「物語」というのは、普通の意味、小説・ドラマ・アニメ・映画など(フィクション・ノンフィクション問わず)出来事を表象[1] … Continue readingする人工物のことです。「参与」は「鑑賞」と読み替えても構いません。つまり、「『物語を鑑賞するとはどういうことか』についての分析のモデル(枠組み)を与える」というのが前半の内容になります。

つぎに副題についてですが、分析モデルと言っても心理学や哲学など学問によって色々な形がありえます。私の専門はイギリスやアメリカの哲学の主流である「分析哲学」、特に「芸術」や「美」、「感性」などを扱う「分析美学」という分野です。そのような分析美学の手法で物語鑑賞について考える、というのが副題の趣旨になります。

Q1-2. なるほど、物語という対象に対して、分析哲学×美学という2つの領域からアプローチするんですね。そもそもどういうきっかけでこうした手法に行きついたのでしょうか。

元々小さいころから物語を読むのが好きで、物語作品というもの自体にも興味がありました。物語はしょせん人の作った物だし、直接的な利害関係もないはずなのに、どうして人の衝動みたいなものに訴えかけるのか?と思っていました。

たとえば子供のころ『ダレン・シャン』シリーズを読んだ人は多いと思います。この作品は、作者のペンネームがダレン・シャンで、自分が経験したことをつづる、という体裁をとっています。これを初めて読んだときに、作り物じゃないの?という驚きというか、現実との境目が分からなくなる、そんな衝撃を受けました。後から『ダレン・シャン』を読み返す機会があったのですが、これは今の関心につながってるなぁ、と思っています。

▲『ダレン・シャン』シリーズ

ーー『ダレン・シャン』!そんな読み方もできる作品なんですね。

はい。そういう物語の分析のしかたが知りたくて、とりあえず大学では文学部に入りました。文学部では中上健次という作家についての研究をしたのですが、研究をしているうちに、こういうことがやりたいわけじゃないな、と思うようになりました。

ーー こういうこと、とは?

文学研究であれば、個別具体的な作品の新しい「読み」を提供することが目的です。しかし自分はさっきも言ったように「物語作品そのもの」に興味がありました。大学4年のとき留学をして、授業で分析美学というものに出会いました。これが自分の関心に近いと思い、大学院ではこういうことをやろう、と決心しました。

次回に続きます。

References

References
1 表現(express)は、形を持たないものに形を与える(怒りという感情を身振りで表現するとか)ニュアンスがあるのに対し、表象という言葉は既に形を持つもの(出来事とか人物とか)を再び提示する(represent)するという意味で使用されます。