ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第三回は教育史研究のHさんです。

研究をしていて面白かったこと

Q3-1. 修士論文の研究では、どういうところが面白かったですか?

及川平治文庫に行って、生の資料を見ることの楽しさを感じました。100年前の本の書き込みを細かく見ている人なんて、まさか誰もいないだろうなと思ったときの、何とも言えないワクワク感はありましたね。その時に、こういう研究を続けていきたいなと思いました。

そうした経験があったので、今ではほと歴史研究みたいなことをしています。博士論文で教育思想史研究をやろうと思ったのは、修士論文での経験の影響が大きいです。

哲学では、かなり文献を精密に読まなければ、自分の言いたいことをテクストからつまみ食いして語るということにしばしば陥ってしまいがちで、それを避けるためにも哲学の歴史を参照したりするわけですが、自分の関心にはあまりぴったりはまらなくて。

歴史研究だったら史料・資料に何かを語らせることで、より確実なことを言えているなと思いました。そういう、哲学研究に対して抱いていたモヤモヤに対して、及川平治文庫での調査経験は答えを与えてくれた気がします。

独学者にむけて

Q4-1. 初学者があたるべき文献、避けたほうがよい文献などはあるでしょうか?

たとえばベルクソンについて研究したいと思ったら、一人の書き手がベルクソンについて論じた本ではなく、色々な人がベルクソンについて書いている本のほうがよいかもしれません。他の分野でも、いわゆる“論集”とよばれるものが、初学者にはお勧めです。

論集だと、書き手もおのずと自制するんです。一人の書き手が書いた入門書だと、その人の流儀をおしつけてくるものもどうしても多いです。それよりは、多角的な論点から論じているものを読んだほうが、初学者の求める要件に合っていると思います。

良い本・悪い本があるというよりは、その本をどういうふうに読むかというところに、入門の在り方はかかっていると思います。

ーーご自身の経験で、「この本は初学者段階ではなく、もっと後から読んでも良かったな」といったものはありますか?

“入門書”と銘打ったたぐいの本は最初に読まなくても良かったかなと思います。読み物としては面白いですが……大きな森に入る前に、その森全体を知れるような本って、なかなか読むのが難しいと思います。

あと、古典の原文も、最初に読まなくてもいいと思います。わからなさに圧倒される経験も悪くはないですが。古典の原文にあたるときは、ゼミや読書会のような、他の人と一緒に読む場のほうがおすすめです。一人で読むと、誤った読み方をしたときに軌道修正できませんし。大学院に入ってみて、とにかく読書会をするのが人文系の傾向だなと思ったのですが、その大きな理由は、読みを正せるから。

自分ひとりでは気づかなかった読みや、わかった気になっていた部分について理解を深められるという点で、読書会は大切な方法だと思います。