ーー ついに及川が実際に読んだであろう本にたどりついたんですね!その英語の本をご自身でも読んだんですか?

はい、とりあえず読もうと思って、和光大学及川平治文庫に行って、本を出してもらうようお願いしました。特別な申請書類を書いて、無事読むことができました。

ーー でもさすがにその場では読みきれませんよね。コピーはできたんですか?

コピーできるはずでした。が、刊行年が不明かつ著者の生死が不明なので、著作権保護期間もわからない。ということで、全ページの複写は断られてしまいました。

その後、インターネット検索を駆使して、著者の死後であることを証明できたので、全ページ複写を無事、依頼できました。

ーー コピーが手に入った後は、どのように資料を読み解いていきましたか?

本の本文の内容も重要ですが、もっと重要なのは及川自身の手書きの書き込みでした。例えば、辞書を使って調べて、注釈をつけた痕跡があるので、どうやって訳語を選んだのか、選択の過程が推測できます。書き込みを読みこむことで、ベルクソンの立論をどこからどう読み取ったかがわかります。特に集中的に書き込みがあると、及川のあの論考はこの書き込み部分の議論を受けたものではないか?という仮説を立てることができるようになります。

ーー こういった調査と、修士論文の文章の形に組み立てていくことは、並行して行っていったのですか?

そうです。基本的に、書きながら考えていきました。

ーー ちなみに、論文のどの部分からできていきましたか?

及川平治ではなく、ベルクソンの論考に関する部分は先にできていました。というのも、最初はベルクソンを直接研究するつもりで、先に学会発表した文章があったんです。修士論文では、ベルクソン哲学を及川平治にどう噛ませるかが大事だったので、そこを起点にして考えました。

残りの及川平治に関する部分は、及川の思想を全体的にとらえたいと思ったので、及川の書いたものを全部集めて、それらを時系列でならべて、思考の形成過程を追いかける形で書こうと思っていました。そのために、及川の書いたものなら全部集めました。

ーー 及川平治の書いたものなら全部集める……どうやって収集するのか想像がつきませんが、例えば国立国会図書館で探すとかでしょうか?

図書館に行ってコピーしまくる、が基本ですね。まさに国立国会図書館には何度か行って、複写をお願いしました。著作権面は問題なかったので、網羅的に雑誌を調べて全部コピーしました。

場合によっては国会図書館にはなく、兵庫県立図書館にだけある資料もありました。及川は神戸勤務だったので兵庫県だけに流通していたのものあったかもしれないですね。兵庫県立図書館にも複写依頼を出して、修論を書き上げる一か月前にもひたすら資料を集めていました。