ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第三十四回となる今回のインタビューでは、フランス文学におけるクロソウスキー研究と情報学におけるソーシャルメディア分析という、文理を越境したユニークな視座で「知の変身」を体現する、須田永遠さんにお話を伺います。

文学への憧憬と「書くこと」への意志

——本日はよろしくお願いします。須田さんのご研究について予習してきたのですが、フランスのクロソウスキーという思想家・作家の研究から、ソーシャルメディア分析という、一見するとかなり異なる分野に移られたダイナミックな変化に驚きました。

ありがとうございます。分野を移ったというよりは、もうひとつ焦点が増えた、という感じに近いのですが、確かにダイナミックな変化に見えるとは思いますね。

——その大きな転換も含めて、須田さんのこれまでの歩みを伺えればと思います。まずは、大学院で東京大学の言語情報科学専攻(駒場キャンパス)に進まれた経緯からお聞きしたいのですが、学部は早稲田大学だったそうですね。

はい。学部は早稲田大学の、今はもうなくなってしまったんですが、第一文学部でした。 そこには「文芸専修」という、何をやってもいい、何を書いてもいいよ、という自由なコースがあって、 そこで、自分の好きな日本文学の作家について本を読んだり、まあ基本的に遊んでいました。

——最初からフランス文学研究ではなかったのが驚きです。 もともと、文学へのご関心が強かったのですね。

そうですね。 ただ、文学が好きとはいっても学部を卒業後、どうしようかと思い、結局1年間、地元(宮城県)に帰って少しフラフラしていた時期があります。 その時に思い出したのが、卒論を読んでくださった先生の言葉でした。

その先生が「文学をやる上でも、一度海外を経験する、外国語を経由するというのはすごくいいことだ」とおっしゃっていて。 語学もそうですし、見識がすごく広がるから、仮に日本文学をやる人間でも海外の経験を持つことは大きい、と。 それで、何でもいいから外国文学をやってみようと思ったんです。

——そこでフランス文学を選ばれたのは?

本当にいい加減なんですが、学部時代入っていたサークルで、フランス現代思想などを読む勉強会があって、フランスの思想を専門にしていた先輩に「文学だったらやっぱりフランスがいいんじゃないか」と勧められたのがきっかけです。 結果として、ヨーロッパの文学研究の中でも特に層が厚いですし、フランスを選んで良かったと思っています。

——大学の学部・学科選びも、文学を学べることを軸に?

いえ、文学はずっと興味がありましたが、大学選びに関しては、私は地方の本当に小さな町の出身で、情報が少なかったんです。

——私も地方(富山県)出身なので、よく分かります。

当時はインターネットも今ほどではなく、大学のイメージは知っている小説の中のものが全て、というような感じです。 高校の時にたまたま読んでいた五木寛之さんの『青春の門』という小説があるのですが、主人公が上京して、早稲田大学に入るんです。 作者の五木さん自身も早稲田大学で学ばれているので、その小説に出てくる早稲田のイメージが鮮烈でしたね。 すごく変な人がいっぱいいて、みんな自由で。 少なくとも自由であろうとする気風がある。 そのイメージに憧れたのが一番大きいです。

——実際に入学されて、そのイメージとのギャップはありませんでしたか?

実際、変な人は多かったですし、概ねイメージ通りでした(笑)。 それに、私が高校生の頃は、ちょうど綿矢りささんが芥川賞を受賞された時期で、早稲田出身の作家が非常に多くて、早稲田の文学の存在感が強かった時期でもありました。

——当時は作家として「書き手」になる道に惹かれる部分もありましたか?

もちろんありました。文学に惹かれる人って、単に読むことのスペシャリストになりたいというより、文学の世界観や書き手の生き方、あり方に憧れる人が多いと思うんです。当然、自分もそうした文学者のあり方に憧れて「書きたい」と思いましたし。

文学研究においては、そうやって「読むこと」と「書くこと」への動機が、結構、混然一体となっているんですよね。

——なるほど、読むことと書くことが、はっきり分かれているわけではないんですか。

ええ。例えば、優れた文学の論文って、それ自体が二次文献(研究書)でありながら、読んだ時にまるで一次文献(原作)を読んだ時のような素晴らしさや印象を追体験させてくれる力がある。作品の世界観を、自分の文章を通じてもう一度伝えるというか。だからこそ、文学の論文を書くのはすごく難しいのですが、私の論文もそうあってほしいなと思っています。

次回はクロソウスキー研究について伺います。