ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。
第二十九回となる今回のインタビューでは、「国家」という当たり前の存在を歴史の中に問い直し、「石油が国家を作るとき」という独創的な視点からその成り立ちを解き明かす、研究者の向山直佑さんにお話を伺います。
新たな挑戦——「常識」を疑い、世界の見方を変える
——そして現在、向山さんはさらに新しい研究テーマに取り組んでいらっしゃいますね。日本の戦国時代から江戸時代にかけての歴史を分析されているとうかがいました。産油国から日本の近世へ、というのは大きなテーマの転換に見えますが、そこにはどのような繋がりがあるのでしょうか。
扱っている事例は全く違いますが、私の中での問題意識は一貫しています。それは、「私たちが当たり前だと思っている『国家』というものが、どのような歴史的経緯を経て生まれてきたのか」を解き明かしたい、ということです。
新しい研究では、日本という国を一つの単位として見るのではなく、一つの「国際システム」として捉え直しています。
——日本を「国際システム」として見る、ですか。
はい。戦国時代の大名が治めた「領国」や、江戸時代の「藩」を、それぞれある程度独立した一つの単位と見なすのです。もちろん、特に江戸時代の藩の独立性にはかなりの制限があるので、それらが「国家」だったと言うことはできませんが、国家「のようなもの」として扱うことはできます。そうすると、戦国から近世の日本は、それらの単位がひしめき合う一つの国際システムとして分析することができます。その中で、藩や領国というレベルで、いかにして「国家」に近いものが形成されていったのかを研究しています。
——私たちが漠然ともっている「日本という国」のイメージが、揺るがされる感覚があります。
ただ、この発想は、なかなか理解してもらえないことも多いんです。発表する場でも、まずその前提を理解してもらうまでに時間がかかってしまうことがあります。私たちは「日本」という一つの国家が存在する世界に生きているので、そうではない状態を想像するのは難しいものです。
でも、私が研究で一番面白いと感じるのは、まさにその部分なんです。誰もが当たり前だと思っている前提を疑い、問い直すこと。そうすることによって、世界が違って見えてくる。それが自分の研究の「売り」だと思っています。
——「発想の転換」がご自身の強み、ということですね。
研究者には色々なタイプがいます。データ分析が非常に得意な人、地道な文献調査を厭わない人、フィールドワークで独自のデータを取ってくるのが上手い人、あるいは非常に高度な理論を構築する人。それぞれが自分の強みを見つけて、オリジナリティを出していく。私にとって、それが「発想の転換」だった、ということだと思います。
——日本史を国際システムとして捉えるというアイデアは、海外の研究者にはどのように受け止められるのでしょうか。
面白いことに、日本で話すよりも、英語で発表した方がすんなり受け入れてもらえることが多いんです。おそらく、海外の研究者は日本史に対する先入観が少ないからでしょう。逆に、日本で日本の話をすると、誰もが歴史の授業などで多少の知識を持っていますから、色々な方向から意見や反論が出てきやすい、という側面があります。
——日本文学の英語訳のことを連想しました。『源氏物語』のアーサー・ウェイリー訳で、「シャイニング・プリンス(光る君)」「カーテン(御簾)」と訳されることで、かえって本質がダイレクトに伝わる、という話にも通じるかもしれませんね。一度、自明だと思っている文脈から切り離すことで、物事の新たな側面が見えてくる。
まさしく、そういうことだと思います。自分が知っていると思っていることを、一度相対化してみることで、新しい視点が得られる。これは研究に限らず、様々な場面で言えることかもしれません。
ですから、この日本史の研究も、最初は英語で論文や本として発表することになると思います。私の研究スタイルとして、まず英語で発表し、それを後から日本語に翻訳するという形を取ることが多いんです。
——最初に英語、次に日本語というこだわりのスタイルがあるのですね。やはり、英語と日本語では、読者の数が圧倒的に違うからでしょうか。
それもありますし、やはり異なる文化を持つ人々に届けることで、自分では気づかなかったようなフィードバックが得られやすい、というメリットもあります。もちろん、翻訳には常に難しさが伴います。例えば、日本の歴史に出てくる「一揆」という言葉。これは具体的な行動としての反乱(riot)や蜂起(uprising)を意味するだけではなく、人々が一つに団結する「状態」やその組織そのものを指す言葉でもあります。このニュアンスを的確に表す英単語は、なかなか見つかりません。これまで日本のことを研究してこなかったので、最近になって、こうした日本語から外国語へ翻訳することの難しさに直面しています。
——ご自身の領域を広げることで、新たな挑戦が生まれているのですね。
そうですね。でも、それもまた、新しいことを学び、知るということですから、やはり楽しいです。一つのテーマをずっと追いかける研究者もいますが、私は色々なテーマに取り組むことで、常に新しい知識に触れていたい。自分がこれまで知らなかったこと、考えてもみなかった世界の描き方に出会う瞬間が、研究者として最も喜びを感じる時です。その喜びを、本や論文を通じて、読者の皆さんにも届けられたら、と思っています。
——常識を疑い、新たな視点を提供し続ける。向山さんが次にどのような「発想の転換」を見せてくださるのか、非常に楽しみです。本日はありがとうございました。
ありがとうございました!




