ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第三十回となる今回のインタビューでは、失われた技術を求め、自らの手で古代の窯を復元しながら謎多き渥美古窯の探究を続ける陶芸家、稲吉オサムさんにお話を伺います。

迷いの中から見出した「天職」と土着文化への回帰

——何か大きなきっかけがあったのでしょうか。

やはり、修行時代が大きかったと思います。20代半ば、自分の考えを完全に捨てて師に尽くしたあの時期があったからこそ、今、自分で何でもやらなければいけない状況になった時に、「どうせなら楽しくやろう」と思えるようになったのかもしれません。

——このインタビューの読者には、進路に迷っている高校生や大学生も多いと思います。稲吉さんの10代後半から20代前半は、どのような時期でしたか。

僕は15、6歳で高校を辞めているので、その時点であったのは「何でもいいから働きたい」という気持ちだけでした。

——とにかく働きたい、ですか。どうしてだったのでしょう。

勉強が苦手だったのもありますが、あまり人と関わりたくなかった、というのも大きいですね。中学時代の人間関係があまり良くなかったので、誰も知らない高校へ行けば穏やかな日常が過ごせるかと思ったら、結局そこにも嫌なやつがたくさんいて。「あ、しまった! ここじゃない!」と。

——「あれ? こんなはずじゃなかった!」となったわけですね。。

人生、そんなことの連続じゃないですか?「こんなはずじゃなかった」ということばかり。でも、その都度、自分で判断して決断してきたことだから、後悔はありません。高校を辞めるというのも、一つの大きな決断でした。

すぐに働き始めたのですが、高校に行っていないと、職業選択の幅は狭くなります。工場勤務の時に流れ作業で、ひたすら立ちっぱなし。少しでも楽に、効率よく作業を進められないかと思って、自分で椅子を作って座っていたら、ものすごく怒られました。

——良かれと思っての工夫が……。自分で椅子を作っているのが、まずすごいですけれども

ええ。僕の中では「あり」だったんですけどね。それで、結局その工場は2日で逃げ出しました。

——判断が早いですね。

昔からそうかもしれません。とにかくその場から逃げ出したくて。海沿いの工場だったので、近くにあった自転車で必死に家まで帰ったら、自宅の前で会社の人が待ち構えていて、すぐに捕まりましたけど(笑)。

——なんとも波乱万丈な16歳ですね。そこから焼き物の専門学校へ進むまでは、どのような道を?

20歳くらいまでは、正社員になったりしながら、職を転々としました。その中で、やはり物を作る仕事は面白いと感じましたね。家の内装や建具を作ったり。親方と二人でやることが多く、その頃から既に職人仕事のようなイメージでした。今、自分の仕事場を改装したりする時に、あの頃の経験がすごく役に立っています。無駄なことなんて、一つもなかった。全肯定です。

——迷う時期があったからこそ、今がある。

迷った方がいいんじゃないですかね。今でも僕は毎日迷っていますよ。先日、中学校の担任の教師と会う機会がありまして、「先生、僕このままでいいんですかね?」って相談したら、「いいんじゃない?好き勝手やってるこのままで」って言われました。先生が言うなら、間違いないかなと。

——「好きなことを見つける」というのは、多くの若者が抱えるテーマです。

知らないうちに好きになっていた、というのが一番いいんじゃないかと思います。例えば音楽でも、あるバンドを聴いて「いいな」と思ったら、だんだんハマっていって、気づけば頭の中でずっとその音楽がループしている。脳みそが自然とそれを求めているような感覚。それが本当に「好き」ということなんだと思います。

——稲吉さんにとって、その一つが渥美古窯だった。

そうですね。形があり、その背景には歴史がある。そして何より、地元のことだった。それが一番大きいかもしれません。自分の足元を、どんどん深く知りたくなってしまう。

——ご自身のアイデンティティと深く結びついているのですね。

日本の焼き物は、もともとその土地の土で焼かれる「土着」の文化です。備前焼、信楽焼(しがらきやき)、常滑焼(とこなめやき)と、産地の名前がついているのはそのためです。土地の素材で、その土地の焼き方をするから、それぞれに個性が出る。その土地らしさを大事にしたい。

でも今は、電話一本で例えば信楽の土がここ豊橋まで届く時代です。その土をここで焼いて、「信楽焼です」と言われても、なんだかおかしいですよね。自分の土地にある木や土といった素材を使い、その土地の文化を愛することが、もっと大切になるんじゃないかと感じています。

——ああ、「〇〇焼」と言ったら、確かにそういうイメージですよね。単に土がその土地のものであるだけでなく、水や空気、燃やす薪の種類まで、全てがその土地の個性を形作るといいますか。

そうです。それこそ、窯の燃料となる薪の種類一つで、焼き上がりの色はまったく変わります。それだけ変数が多く、困難なことではあるのですが、僕の場合は「やりたい」という気持ちが先に立って、走り出しちゃうんです。ある程度の段取りはしますが、あとは現場で考えながら進めていく。

——考えながらも、考えすぎない。身体で学んでいくスタイルですね。

おっしゃる通りかもしれません。頭で考えるより、腑に落ちる感覚、納得感を大切にしています。

最後は渥美古窯にどのように迫っているのかについて伺います。