——進路を選択する際、数ある大学の中から東京外国語大学を選ばれたのは、やはりその延長線上にあったのですね。

そうですね。ただ、語学そのものが好きというよりは、「外大」という環境そのものに惹かれた面が強いかもしれません。外大は出願時に専攻言語を決めなければならないシステムなのですが、高校生の私は、フィリピン語に限定して考えていたわけではありませんでした。

——出願時点で一生を決めるようなプレッシャーはありませんでしたか?

ありましたね。タイ語、中国語、ベトナム語……。いくつかの候補の中で、どこに出願しようか真剣に悩み、私は独自の「点数表」を作ったんです。「留学するならどこが魅力的か」「どこの国の料理が好きか」といった項目を立てて、自分なりの楽しさを数値化していきました。その結果、最終的に一番点数が高かったのがフィリピンだった、というわけです。

——非常に戦略的というか、ユニークな決定方法ですね。

当時は無意識でしたが、自分なりに「語学を楽しむための軸」を作ろうとしていたのかもしれません。東アジアや東南アジアの言語に惹かれていたのは、フランス語があまり身につかなかった反動で(笑)、アジア方面に親近感を抱いていたからかもしれません。

——実際に大学に入学して、フィリピン語との相性はいかがでしたか。

自分には合っていたな、としっくりきています。外大のキャンパスは非常にコンパクトで、どこで過ごせばいいかがすぐ分かる。その限られた範囲の中に、自分の興味があるものが凝縮されている環境は、私にとって非常に幸運でした。

そして、タガログ語そのものだけでなく、「言語を学ぶというプロセス」そのものにも面白さを見出していきました。新しい言語を学ぶ際、どのような順番で項目を理解していけばいいか、その道筋が見えてくる感覚がたまらなく楽しかったんです。

——「言語を学ぶことを学ぶ」といった、メタ的な視点ですね。

まさにそうです。例えば英語なら、Be動詞から始まって現在形、過去形、そして仮定法や分詞構文へ、というカリキュラムの繋がりがありますよね。フィリピンの言語にも当然、特有の構造があります。

タガログ語の場合、特に「動詞の活用」が非常に複雑で、学習時間の多くをそこに割くことになります。フランス語の不規則動詞で挫折した私からしても、タガログ語の活用もかなり複雑です。

——具体的に、どういった点が難しいのでしょうか。

最も特徴的なのは、日本語や英語とは異なる「焦点」という考え方です。例えば「食べる」という動作一つとっても、「誰が食べたか」を強調する場合と、「何を食べたか」、あるいは「誰のために食べたか」によって、動詞の形が変わるんです。

活用の数に圧倒されますが、その「重さ」こそが、その言語が何を重要視しているのか、人間という存在をどう解像度高く捉えようとしているのかを物語っていて、そこに知的な興奮を覚えるようになりました。

次回は自身の研究スタイルを伺います。