——「イキリ始めた」とは?
単に先生になるだけじゃ満足できなくなって、「理想の教育を実現するためには、自分の学校を作るしかない」と思い込むようになったんです。「青田学園を作るぞ」という謎の野望を抱きまして(笑)。
今思えば、学校を作るなら実業家になって資金を稼いだほうがいいのでしょうけど、当時の私は「まずは教育とは何かを学ばなければならない」と真面目に考えて、大学は教育学部を目指すことにしました。
——まずは「そもそも教育とは」を考えてみたかったんですね。大学受験の道はいかがでしたか。
それが、また壁がありまして。私は数学が致命的にできなかったんです。志望校として東京大学を挙げたとき、周りの友達には呆れられました。「お前が行けるわけないじゃん」と。ある友人には「もし東大に受かったら、肉まん100個おごってやるよ」と賭けを持ちかけられたくらいです。
——肉まん100個! それはまた大きく出ましたね。高校生らしくてほほえましいですが。(笑)
当時の金額で1万円ちょっとですから、今考えるとそこまで高額な賭けでもないんですが(笑)、当時の私たちにとっては大金ですし、何より「絶対に無理だ」と思われていることが悔しくてたまらなかった。
普通ならそこで落ち込むのかもしれませんが、私は逆に闘争心に火がついてしまって。「絶対に受かってやる!」と猛勉強を始めました。結果として東京大学に合格できたので、あの友人の一言には感謝しています。ちなみに、肉まんは結局買ってもらえませんでしたけどね。
——その反骨精神が功を奏したわけですね。念願の東京大学に入って、授業ははいかがでしたか。教育学の講義もたくさん受けたと思いますが。
それが……正直に言うと、あまり面白くなかったんです。
もちろん私の学びが浅かったせいもあるのですが、大学の授業で扱われる教育行政や制度論、経済的な視点からの教育論といったものが、どうしても肌に合いませんでした。「役に立つ」ことは分かる。でも、私が求めていた「そもそも教育とは何か」「学ぶとはどういう体験なのか」といった根源的な問いとは、少しズレているように感じてしまって。
——ああ、「有益なのはわかるけど、ワクワクしないな」という感じですかね。
そうなんです。「これじゃないな」という感覚を抱えたまま、1年生の終わりの時期を迎えました。そんな時、たまたま抽選に外れて受講することになった哲学の演習授業が、転機になりました。
そこでトマス・クーンの『科学革命の構造』という本を読んだんです。科学という絶対的だと思われているものでさえ、時代のパラダイムによってその定義やあり方が変容していく。その議論のダイナミズムに衝撃を受けました。
何より嬉しかったのは、その授業の先生が、私の作ったレジュメを見て「君はレジュメを作るのうまいね~」と褒めてくれたことなんです。
——小学校の作文の時と同じですね。褒められることで道が開ける。
本当に単純なんですが、あまり興味の持てない教育学の授業で成績も振るわず、劣等感を感じていた時期だったので、その言葉がすごく響きました。「あれ? 私、もしかして哲学とか思想史に向いているのかも」と。
それで、思想や哲学の分野に進もうと考え、いろいろな研究室を探す中で、「美学芸術学研究室」というところに出会いました。ホームページに「お歯黒から漫画まで何でも研究できます」と書いてあって(笑)。
——なんとも懐の深いキャッチフレーズですね。
はい。「美学」という確固たるアプローチの基礎を身につければ、対象は何でもいい。まだ具体的に何を研究したいか定まっていなかった私にとって、その自由さは魅力的でした。
まあ、実はその年の美学研究室が進学振り分けの定員割れをしていて、成績に関係なく入れたというオチもあるんですが(笑)。ともかく、そんな経緯で美学の世界に足を踏み入れることになりました。
次回は自分のスタイルを確立するまでを伺います。


