ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。
第三十八回となる今回のインタビューでは、奈良市教育委員会で発掘調査の最前線に立ちながら、測量技術やデジタル機器を駆使して古墳時代の社会構造解明に取り組む考古学者、柴原聡一郎さんにお話を伺います。
理系少年から考古学者へ:適性検査が予言した「測量」との邂逅
——本日はお忙しい中、ありがとうございます。柴原さんは現在、奈良市教育委員会で考古学の専門職として働かれていますが、学生時代からやはり歴史少年だったのでしょうか。
いえ、実は全くそうではありませんでした。小学生の頃から理系分野、特に物理や化学が好きで、歴史に興味を持ち始めたのは小学校高学年くらいからですね。それも「なんとなく好き」という程度で。高校に上がって進路を決める際も、物理は好きだったのですが、どうしても数学が致命的に苦手で……(笑)。それで文系を選択したという、やや消極的なスタートでした。
——数学への苦手意識が文系選択のきっかけだったのですね。
ええ。ただ、歴史学といっても古文書を解読するような、いわゆる文献史学は、自分には向いていないかもな、という感覚がありました。
——それはまたどうしてでしょう。
古文が苦手だったからです。そこで、文字資料よりは、モノや遺跡から過去を復元する【考古学】なら、自分の肌に合うのではないかと考えました。
大学は東京大学の文科三類に進学したのですが、当初は日本の考古学ではなく、海外、特に中国や中米の考古学に関心がありました。ただ、大学2年の夏頃、進学振り分け(専攻決定)の時期に「海外に行く前に、まずは足元の日本のことを知っておこう」と軽い気持ちで日本の考古学に触れたのが、今の道につながる転機でした。
——なるほど。考古学の世界には、子供の頃から土器拾いに夢中だったような「考古ボーイ」が多いイメージがありますが、柴原さんは大学に入ってから本格的に関心を持たれたタイプなんですね。
そうですね。私の指導教員などはまさにその「考古ボーイ」がそのまま大人になったようなタイプでしたが、私は違いました。
ただ、今振り返ると面白いエピソードがあります。高校1年生の時に、学校で職業適性検査を受けさせられたんです。100問くらいの質問に答えて「あなたに向いている職業はこれです」と診断されるやつです。
——懐かしいですね。結果はいかがでしたか?
クラスの半数がなぜか「パティシエ」と診断されるような、あまり当てにならない検査だったんですが(笑)。私の結果は、3位は忘れてしまいましたが、2位が「大学教授・研究者」。そしてダントツの1位が土木測量士だったんです。
——2位がすでに「研究者」だったんですね。でも1位は土木測量士。
当時は「なんでだろう?」と思いましたよ。道路工事現場などで黄色い三脚の機械を覗いている人たちがいるな……というイメージはありましたけれども。自分にそんな適性があるとは全く思っていませんでした。
ところが今、私が古墳研究で最も専門にしているのが、まさに「古墳の測量」なんです。前方後円墳などの古墳は、設計図に基づいて築造されています。その設計意図を読み解くために、自分で測量機器を担いだり、ドローンを飛ばして3次元計測を行ったりしています。大学院では測量士補の資格まで取りましたから、あの時の適性検査は、奇妙なほど私の本質を言い当てていたことになります。
——巡り巡って、予言が的中したわけですね。
物理が好きだったけれど数学で挫折した、という話をしましたが、考古学は文系の中でも理化学的な手法を多用する分野です。放射性炭素年代測定や土壌分析、そして測量。理系的な思考やアプローチが強みになる学問なので、結果として、私のあちこちへの興味や適性が、考古学という場所で伏線回収されたような感覚はありますね。
次回は彼のスタンスについて伺います。




