ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。
第七回は戦争とスポークンワーズ研究の猫道(猫道一家)さんです。
猫道さんは1998年より演劇活動を、2008年よりスポークンワーズの活動を開始し、明治大正演歌のカバー、野外朗読、楽器との即興セッションなど、特色ある視点とテーマで「声」「言葉」の可能性を拡張する試みを行っていらっしゃいます。ウエノポエトリカンジャム, Poetry Slam Japan, KOTOBA Slam Japan等、ポエトリーリーディング/スポークンワーズ関連のイベントで司会も務めていらっしゃいます。
研究の手順
Q2-1. この「戦争とスポークンワーズ」というテーマ、なかなか幅広いですよね。どうやって調べていったんでしょうか?
ーーなるほど……もうすこし時代が下ると、音声メディアなどの素材も増えてきたりしますか?
近現代の歌や音楽となると、書籍がたくさん出てきますね。広告やプロパガンダをテーマに調べてみると、ラジオやレコードの音声がよく見つかります。やはり、メッセージが「歌」の形で、音声メディアを通じて広まった時代となると、残っている物の多さが違うなあと。
YouTubeもよく検索しました。コレクターらしき人が貴重な音源をアップロードしてくれていて、自分で買わずに済んだみたいなところはあります。出どころ不明なものもありますが、データとしてアップロードされている以上はきっと改ざんはないので、そういう確からしさはあるはず、と思っています。
ーーそうして調べた情報を、授業用のプリントにまとめるわけですよね。
私は専門の研究者ではないので、準備期間もできることも限られていました。読める書籍も限定的ですし。図書館で借りた本も全部は読めないので、必要そうなパートを拾って目を通しました。
プリントには、当時の文章や歌詞をなるべくそのまま載せて、一方で自分の考えはあまり書きませんでした。プリントはあくまで知識の集合体として、素材のままの言葉をならべるだけでも、受け手側の考えを誘発することはできる、と思ったからです。それに、並べ方そのものにも意図とか意味が現れる。音楽を選んで、なんらかの意図をもって繋ぐ、DJみたいなところがあると思います。
プリントに書かなかった自分の意見や考えは、代わりにライブパフォーマンスを通じて伝えることにしました。
ーーライブで伝える!パフォーマーだからこそできる伝え方ですよね。
私は一応、史学科の出身なのですが、論文を書くのは苦手で。考えを表明することはイコール、ライブをすることなんです。実際の授業では、プリントの解説の合間に、軍歌や反戦歌のリミックスやアレンジのパフォーマンスをはさみながら、飽きないように工夫しました。
先ほど紹介した、パフォーマーが授業をするイベントの他に、実は、大学に勤務する知人からも、大学で授業をしてくれないか、と依頼があったんです。その大学は、アートディレクターやCGクリエイターなどメディアに関わる人材を育成する学校で、学生の7割くらいが留学生。特に中国からの留学生が多いという特徴がありました。その大学を卒業したあとは何かしらのアートやエンタメに関わる人が多い。依頼してくれた知人自身も映像ディレクターです。そこで、私が「“声というメディア”の専門家」として授業をしてほしい、ということでした。
大学では、一般教養のメディア論の時間をもらい、「戦争とスポークンワーズ」の授業をしました。先ほどふれたように、学生さんたちの大部分は中国出身。中国人を相手に日本の軍歌をパフォーマンスする場面もあるわけで、戦争責任についても真摯に話しました。そのうえで、当時の戦争プロパガンダのひとつとして聞いてほしい、中国に対する日本の戦争責任について誠実に考えようとする日本人もいるということをどうか知ってほしい、ということは伝えました。
ーー実際に授業をしてみてどうでした?
プリントを配るだけでなく、パフォーマンスを入れたことで、レジュメの言葉がわからなくても、ある程度伝わることがあったんじゃないかと思いますね。例えば、「平家物語」の源氏と平家の合戦の描写で、野次の飛ばし合いのシーンがあるのですが、それをラップバトルにして実演したり。受講者のみなさんもビートに乗ってくれて、楽しんでくれました。音楽にするとよりニュアンスが伝わりやすいなと感じましたね。
受け手側に予備知識がないことも想定して、「伝え方」を最大限工夫しなければいけない、という覚悟が決まりました。
次回は研究をしていてどのような点が面白かったかについて伺います。