ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第九回は教育哲学研究のNさんです。

アドバイスや心構え

Q3. 今はベルクソン研究はされていないんですね。

大変悲しい話なんですが、修論を日仏哲学会や教育哲学会に何回も出したんですが、結局受理されませんでした。論文をコンテクストに即してまとめるということがやっぱり向いてないなと最近痛感していて、研究者になるのを諦めたわけではないけれど、毎日のように研究者向いていなと感じています(笑)。

▲「向いていない」とは言いながらも、Nさんのデスクには大量の文献が……

だから、研究者というよりは大学の教育者になりたいというのが自分の率直な願いです。現在は読書会を開いたり初心者向けのゼミ、あとフランス語の語学学校(!)などを開催したりしています。今までしゃべってきたような経験があるので、僕の哲学を通じて人の悩みを引き受けて、導ける存在でありたいと思っています。僕自身のアイデンティティとしては、探偵のような存在でありたいと思っています。

─探偵、ですか?

僕は子どものころからミステリーが大好きだったんですが、探偵と犯人の関係の関係って非常に美しいなと思っているんです。横溝正史の金田一耕助がまさにそうなんですが、探偵っていうのは、犯人以上に犯人のことを理解しているんですよね。

人を殺すのは犯人にとって想像を絶する苦しみを伴う行為なんですけど、僕の理想とする探偵は、事件の全貌だけでなく、どうしてそのような殺人を起こしてしまったのかという犯人の過去の苦しみにまで踏み込んでいくんです。それが結果的に、犯人を救うことにつながったりもします。敵であると同時に誰以上にもその相手のことを理解して引き受けようとする、そういう他者理解のモデルが探偵であると思っています。

教育者も、長期的な視点で他者の悩みや経験の構造を解明していくという点で探偵的です。また、テクストを読むときの態度も同じで、著者の書いた背景まで踏み込んでいくという読解姿勢にもつながっていると思います。