ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。
第十一回となる今回のインタビューでは、堀越耀介先生にお話をうかがいます。堀越先生は東京大学共生のための国際哲学研究センター(UTCP)特任研究員として、学校や企業など様々な場で哲学対話の実践と研究を行っています。
哲学対話の応用
Q3. 博士課程に進学後、企業や社会への応用を考え始めたわけですね。
ええ。どうしても哲学の研究だけで食べていくのは難しいですし、教育学に移ったからといって状況は劇的に変わるわけでもない。ただ、「企業のなかに哲学が入ると面白い動きが出るのでは」と思ったんです。海外ではGoogleや欧州の企業が哲学者を雇う例もあると耳にしましたし。
──「そもそも」を考える余地がないと、組織は停滞する。それを動かせるのが哲学では? という発想ですか。
もちろん哲学がすべてを解決するわけではないですが、日々の業務や新規事業、理念浸透の場面で「そもそも何のためにやっているのか」を問い直す機会を設けると、かなり違った視点が得られます。現にそういう場を求めている企業は少なくありません。ただ、研究者側があまりにも「自分たちの学問は純粋でなければならない」と言いすぎて、ビジネスとの接点をつくってこなかった歴史があるんですよね。
──哲学は「役に立つかどうか」を超越したものだ、という考え方も根強いですね。
「実利からは離れたところにこそ哲学がある」という見方を持つ人も多くて、それ自体は理解できなくもないのですが、そうすると一般社会から見ると「哲学って何のためにあるの?」となりかねない。実際に人文系学部が統廃合の危機にさらされる例も出てきていますよね。大学のなかで「哲学は社会と関わらなくてもいい」というまま放置していたら、やがて居場所ごと失われるかもしれない。裾野を広げないと、プロも食えなくなるという話と同じです。
──哲学者が企業に入って対話の場をつくるには、ビジネスの言葉を学ぶ努力も必要でしょうね。
絶対に必要です。現場の課題感とか組織の悩みを理解しないと、いくら「そもそも論が大事だ」と言っても噛み合いません。相手の話に耳を傾けながら、「こういう問いは哲学的に整理できるかもしれないですよ」と翻訳してみせる。そういう中間に立てる人こそブルーオーシャンだと思いますし、実際にやってみると手応えもある。研究者だからこそ、「そもそもを問い直す」技法を体系化できる余地があるはずです。