倫理学のとびらを開く
はじめに
高校公民科の選択科目には「倫理」の授業があります。選択科目なので、授業を受けたことがない人のほうが多いかもしれませんね。では、“倫理”と似た言葉の“道徳”なら、「そういえば小・中学校で道徳の授業があったな~。でもあれ何だったんだろう……」と思い出す人もきっといるはず。いずれにしても、倫理や道徳って自分と関わりない遠いもの? 堅くて押しつけがましいもの? いやいや。普段の生活から、慣れ親しんだフィクションの世界まで、なにげなく接しているものごとに潜んでいるのが「倫理」なのです。
『銀河帝国は必要か? ──ロボットと人類の未来 』
著:稲葉 振一郎
ちくまプリマー新書
先ほど紹介した『ふだんづかいの倫理学』が基礎的な倫理学の入門書なら、本書『銀河帝国は必要か?』は「応用倫理学」(科学技術や医療、環境問題などの新しい社会問題について、判断基準を考える学問)の入り口。ですが、本書は応用倫理学そのものの説明からはいったん距離をおき、SF作品の中のロボット・人工知能がどのように描かれてきたか、その歴史をたどっていきます。ロボットや人工知能について考えようとするとき、人間はおのずから「人間とは何か、知性とは何か?」という問いに直面します。その問いへの挑戦と表現をひもときながら、応用倫理学の世界ものぞき見できる一冊です。
まとめ
現実のできごとにしろ、フィクションにしろ、何が起きている(起きていた)かを説明し、それに対して何か判断することは、実はとても難しいことです。そこに「倫理学」という見方をインストールすると、視野を広くして考えることがおもしろくなります。あるいは、極端なものの見方に対して、どう極端なのかを説明できるようにもなるでしょう。これまで空気のようだった「倫理」について考えられるようになったとき、これまではモヤっとしか見えていなかったものごとに、“ふちどり”のようなものが描けるかもしれません。