このインタビューは全3回シリーズ
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ジンブン独学ノートの実践編では、実際の研究について紹介します。研究へのモチベーションから、どのように日々の調査が行われているのかまで、インタビュー形式でお届けします。

第二十回となる今回のインタビューでは、教える現場での疑問を「コーパス」という言語データ分析のアプローチで解き明かし、日本語教育の新たな可能性を切り拓く、研究者の三好優花さんにお話を伺います。

現場の疑問から研究へ、コーパスとの出会い

——研究の難しさに直面されていたのですね。博士課程には、どのように進まれたのでしょうか。

修士課程の指導教官だった菊地先生が、私が博士2年になるタイミングで退官されることになっていたんです。そのため、先生から「博士課程は、別の大学院で学んだ方がいい」と勧められました。東大には、私がやりたい文法研究を日本語教育の立場で指導してくださる先生が他にいらっしゃらなかった、という事情もあります。

そこで色々と調べる中で、一橋大学の太田陽子先生が書かれた『文脈をえがく : 運用力につながる文法記述の理念と方法』という本に出会い、深く感銘を受けました。ある文型がどのような文脈で使われるのかをきちんと記述することの重要性を説いた本で、「これこそ私がやりたかったことだ」と。それで、一橋大学の大学院に進学することを決意しました。

——ご自身のやりたかったことが、より明確になったのですね。「文脈」というのは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか。

それが非常に難しい問題で、研究者や分野によって定義が違うんです。私の指導教官である太田先生の定義は、個々の具体的な状況というよりは、もう少し抽象的なレベルで捉えるものでした。ざっくり言うと、「どんなときに、誰から誰に用いられ、その結果何をするのか」といった、発話を取り巻く状況や目的、話し手の意図などが含まれるとしたうえで、それをある程度抽象化したうえで記述していくというような立場です。私が修士論文で十分にできなかった「自動詞・他動詞の選択基準」というのも、突き詰めれば「どういう文脈であれば自動詞が選ばれ、どういう文脈であれば他動詞が選ばれるのか」という、文脈の面からのアプローチだったんだな、と気づきました。

——博士課程では、研究は順調に進みましたか。

実は、博士課程に進学すると同時に、かつて全学ゼミでお世話になった、憧れの職場である東大の日本語教育センターで非常勤講師として働き始めることができたんです。ただ、その仕事が想像以上に忙しくて……。もともと研究より教えることの方が好きだった私は、すっかり仕事に夢中になってしまい、研究が疎かになってしまいました。

特に最初の1年間は、退官を控えた菊地先生が、毎回私の教案に目を通してくださったんです。本当にありがたいことでしたが、先生からいただくコメントは非常に的確で、時には教案を丸ごと書き直すこともありました。週に6コマの授業を受け持っていたので、授業準備に追われる毎日で、研究はゼミの発表前に慌てて取り組む、というような状態でした。

——それは大変な日々でしたね。

博士1年の夏には、自動詞と他動詞をテーマにした論文を投稿したのですが、不採択に終わり、落ち込みました。そんな中で転機となったのが、博士1年の後期に受講した、【コーパス】を使った研究の授業です。

——コーパス、というと、言語資料を大規模に集積したデータベースのことですね。

はい。その授業のレポート課題で、「何でもいいからコーパスを使って分析しなさい」と言われ、私は「〜しようと思う」という表現に注目しました。当時、授業で「冬休みは国に帰ろうと思っています」のように、未来の予定を話す文型として教えていたのですが、学習者たちは授業では使ってくれるものの、普段の会話では「国に帰ります」のように、より単純な表現を使いがちでした。なぜ定着しないのだろう、と疑問に思っていたんです。

そこでコーパスを調べてみると、「〜しようと思う」は、「公園に行こうと思ってたけど、雨だからやめた」というように、「〜しようと思っていたが、できなかった」という文脈で使われる例が非常に多いことに気づきました。教科書で教える用法と、実際に使われている用法との間にギャップがあったんです。

——現場の疑問が、コーパスによって裏付けられたと。

その発見をレポートにまとめて提出したところ、授業を担当されていた庵功雄先生から「論文として投稿してみたらどうか」と勧めていただき、無事に採択されたんです。それがきっかけとなり、博士論文では、「〜しようと思う」という表現がどのような文脈で選択されるのかを、コーパスを用いて分析しました。

——大きな方向転換でしたが、それがご自身の研究スタイルを確立するきっかけになったのですね。

そうですね。もともと苦手意識のあった研究ですが、博士課程での5年間を通じて、少しずつ楽しめるようになりました。日本語を教える現場で生まれた疑問を、学習者たちの顔を思い浮かべながら研究し、その成果をまた現場に還元していく。その往還こそが、私が一番大切にしていることです。今も筑波大学で日本語を教えていますが、常に現場と研究を行き来しながら、学習者の役に立つ研究を続けていきたいと思っています。

——偶然の出会いを素直に受け入れ、ご自身の道として切り拓いてこられたのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

ありがとうございました!