『ジブンの世界はジンブンでできている2』
第三部 第一章「古本市に出没する宗教研究者」より
大正時代の怪しいDMを眺めよう
哲学・社会学・宗教研究の三人が語り合うと、神田の古本市で二百円で拾ったあやしげな通販DMから、身体のこと、信じること、迷信と呼ばれたものへと話が広がっていきます。「怪しいですよね、どう考えても」「価格設定も絶妙ですね」——専門のちがう三人だからこそ、一枚の紙きれがこんなに面白くなる。身近な「問い」から学問の扉が開く瞬間を、本書のハイライトである鼎談パートからお届けします。
この鼎談に登場する研究者
木村
そして、二つ目のご質問は史料の探し方についてですね。思想家の研究だと、もちろん個人の著作も重要ですが、実は、一番基本的な対象になるのは雑誌です。論説から細かい記事までいろいろ載っていますから。
それに対して、例えば大黒天の話で言うと……ちょっと今日、いろいろ持ってきたんですよ。(カバンから資料を取り出す)
堀越
おっ!
木村
これがさっき言った、大黒天の通販のDMです。神田の古書会館で毎週やっている古本市で、二百円で売っていたものでして。
山田
これは、見つけようと思って見つかったというよりは、偶然だったんですか。
木村
もともと探してはいたんです。古本市に行くと、雑多な紙ものがごちゃごちゃに並んでいる平台があって、本棚よりも変なものが集まりやすいんですよ。紙ものというのは、冊子になった本に比べると所有者がゴミだと思って捨てやすい傾向があり、後の時代に残りにくいため、安くても貴重なことがあります。なので、古本市に行ったらまずそのコーナーを見ることにしていて、その日は当たりでしたね。
今見ていただいてるDMにも、「面識がないのに突然送ってすみません」みたいなことが書いてあります。
堀越
怪しいですよね、どう考えても(笑)。
木村
怪しいですよ(笑)。
もう一つ、このDMは違う団体のものなんですけど、構成が全部ほとんど一緒なんです。「震災があったけど、大黒天を信仰していたから助かったんです」みたいな体験談とか、本当に共通している。まさに定型文のDMですね。
堀越
しかし、ふつうの庶民が尊像を……? 尊像って、神社とかに置いてあるものですよね。家にあったりしたんですか?
木村
例えば、今も仏壇に仏像を置く人はいますので、そういうイメージに近いです。
DMの説明文によると、「彫刻家に頼んで作ってもらったものを金属で複製して、お分かちする」という形です。値段は一円七〇銭で、どこもだいたい一緒。今の価値だと七、八千円ぐらいですかね。神様の像と考えれば高すぎもしないけど、全く安くもない。
山田
価格設定も絶妙ですね。
木村
金属で鋳造するだけなので、原価もそんなにかからない。こうやってDMをもらった人が注文すると、今度は雑誌が届くんです。これがその雑誌です(別の資料を見せる)。普通、雑誌ってお金を払って買うものですけど、これは無料で送られてくる。
山田
大黒天像を買った人に、ですか?
木村
そうです。中身として、まずは大黒天の祀りかたが書いてあるんですが、後半はほとんど広告なんです。「会員になりませんか」とか「もっと大きい像はどうですか」「恵比寿様の像もありますよ」とか、あるいは大黒天にちなんで薬を売ったりとか。
つまりこの雑誌は、新たな会員を獲得したり、次の商品を売ったりするための媒体なんです。会員を増やす方策に注力しているあたり、ちょっとマルチ商法っぽく見えるかもしれませんけど、報酬は支部長になれるとか反物をもらえるとか、現実的なものです。お金を損するわけではありません。
堀越
雑誌の最初の方は、ありがたいことが書いてあるわけですか。
木村
そうですね。買った人からすれば祀りかたが書いてあるのは嬉しいでしょうし、誰も損はしない。でも当時の知識人からすると、やっぱり「迷信」に映るので、「あれはイカサマだ」みたいに批判する人もいました。
堀越
この大黒天像、どういう人が買っていたんですか?
木村
大黒天なので、商業をやる人が一番多いと思います。農業をやる人向けの雑誌や退役軍人向けの雑誌にも広告が出ていたようです。
また、雑誌に載っている「お礼の手紙」みたいなものを見ると――編集部が自作自演している可能性もあるので、本当に送られてきたものかは分かりませんが――、都市部よりは郡部、つまり田舎の方が多いんです。知識人の批判も「田舎の人を騙している」みたいな論調でした。
堀越
面白すぎるな。じゃあ本当に庶民というか、田舎の方々が。
木村
あとは、雑誌のほうを見ると「もともと迷信だと思っていたけど、妻が信仰したことで自分も……」みたいな文章も出てくる。男女での規範の違いが垣間見えたりと、いろいろと世相を窺えるところが面白いですね。
(この続きは本書で)



